私たちの六年目
俺の言葉に、梨華の顔が歪む。


「どうして……?

なんで泊まってくれないの……?」


そう言って頬を膨らますと、梨華は不満そうにベッドに腰を下ろした。


「秀哉ってさ、私のことがずっと好きだったって言うわりに、何もしてこないよね。

なんか秀哉って、よくわかんない」


完全に腹を立てている梨華。


その姿を見ていたら、深いため息が漏れた。


「……ごめん」


俺が謝ると、梨華がハッとしたように俺の顔を見た。


「あっ、えと。

こっちこそ、ごめん……。

ちょっと情緒不安定なだけなの。

秀哉が泊まらないって言うから寂しくて。

それで、つい八つ当たりしちゃったの。

ごめんなさい……」


そう言って涙ぐむ梨華のそばにゆっくりと近づくと、梨華は立ち上がって俺にぎゅっとしがみついて来た。


そんな梨華の背中に両腕を回すと、俺は彼女をそっと抱きしめた。


初めて梨華とこうして触れ合ったけど、想像していたほど胸が高鳴らない。


それは多分、この部屋にいるからだと思う。


梨華は俺が何もしないって言うけど、ここは何か出来るような環境じゃないんだ。


部屋があまりに汚いのも原因のひとつだし。


前の男と一緒にいた部屋でキスしたり。


ましてやあのベッドで寝るなんて。


そんなことがしたいとは、どうしても思えなかった。
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