私たちの六年目




「……や。秀哉ったら!」


急に名前を大きな声で呼ばれて、ビクッと肩が上がった。


「な、何? 郁未」


「何って、さっきからずっと呼んでるのに」


「ご、ごめん。何だっけ?」


「二杯目もビールでいいかって聞いてるの」


「あぁ、いいよ」


俺がそう答えると、郁未は呆れた顔をしながらタッチパネルを押した。


梨華と会った翌週、俺はいつもの居酒屋で郁未と守に会っていた。


ちなみに梨華も誘ったけど、相変わらずのつわりで来ることは出来なかった。


「どーしちゃったんスか? しゅーやサン。

なんでそんな冴えない顔してるわけ?

長年の恋が実って、しかも結婚まで決まって。

今が一番楽しい時期なんじゃないのか?」


俺も最初はそうだと思っていたけど、実際は楽しいどころか憂鬱になることの方が多くて。


恋愛と結婚って、やっぱり違うのかなと思い始めている。


「あのねぇ、守。

そう単純なわけないじゃない。

だって、梨華のお腹の子は秀哉の子じゃないのよ。

いくら梨華を好きでも、全てを受け入れるのはなかなか大変だと思うわよ」


既に、少し酔いが回っている郁未が言った。


「まぁ正直言うと、よく受け入れたなって思った。

オレだったら、多分出来ないと思う。

どんなに好きでもな……」


守にそう言われて、ため息が漏れた。


梨華にプロポーズしたこと。


俺はそれを後悔しているわけじゃない。


ただ……、なぜかひどく胸が重たいだけだ……。
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