私たちの六年目
つい最近まで、郁未は菜穂に対して少し腹を立てていた。


菜穂がなぜ突然俺達の前から姿を消したのか、その理由がわからなかったからだ。


今まで菜穂の気持ちを考えて、伝えなかったけれど。


もうここまで来たら、ちゃんと言うべきだと思った。


「俺の……せいなんだ」


俺の言葉に、郁未と守の動きが止まる。


「えっ、何……?」


「秀哉のせいって、どういうこと?」


二人の戸惑いが伝わってくる。


まさか原因が俺だなんて、思ってもみなかったんだろう。


「実は、菜穂は……。

俺の事が好きだったんだ……。

それも、大学入学当初から……」


俺の言葉を聞いて、パッと口を手で押さえる郁未。


「嘘……でしょう? 菜穂が秀哉を……?

守、あんたは気づいてた?」


「バッ、気づくわけないだろう?

菜穂は、誰に対しても平等に接するんだから」


「二人と同じで、俺も菜穂の気持ちに全然気づいてなかったんだ。

あの日、居酒屋から出て行った菜穂を追いかけた時に、初めて言われたんだ。

ずっと好きだったって……」


「そんな……!」


郁未も守も信じられないといった表情をしている。


それほど菜穂は、自分の気持ちを誰にも悟らせなかったんだ。
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