私たちの六年目




「お先に失礼します」


仕事も終わって会社を後にすると、俺はトボトボと駅までの道を歩いていた。


気が付けば、暦はもう9月になっていて。


吹く風が、幾分涼しくなり始めていた。


梨華のお腹も少し膨らみ始めたらしくて。


そうなってくると、そろそろ俺の両親に結婚の話をしないといけないんだけど。


なんだか重い腰が上がらない。


だって、梨華のお腹にいるのは、俺の子じゃない。


それなのに、その子は自分の子供だと両親に嘘をつかないといけないのか?


それとも、俺の子じゃないけど結婚するって正直に言うべきか?


梨華と普通に恋愛して結婚するのであれば、何の迷いもなく報告出来るのに。


そうじゃないから、その答えがなかなか見つからないんだ……。


「おーい、日生」


聞き慣れた声に振り返ると、会社の同僚の竹下が俺に手を振っていた。


「今帰り? 俺もなんだ。駅まで一緒に行こう」


「いいよ」


竹下は、俺と同期入社。


社内では一番仲が良いかもしれない。


「日生。お前、なんか最近元気ないけど、どうしたの?」


「え……?」


「今もさ、背中に哀愁が漂ってたぞ。なんかあったの?」


竹下に聞かれて、答えに詰まってしまった。


今俺が抱えている不安を、誰かに聞いてもらえたらどれだけラクになるだろう。


だけど、そんなこと言えるはずもなくて。


「ううん、何にもないよ」


そう答えるしかなかった。
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