私たちの六年目
「おぉっ? なんだ、あれ?」


そう言って竹下が指差したのは、駅の近くの広場。


いつもは何もない広い空き地なのに、今日はステージが設置されていて、大勢のスタッフさん達が忙しそうに動き回っている。


そんななか、見覚えのある後ろ姿を発見してしまった。


あれは、間違いない……。


菜穂だ……。


「すみませーん!」


突然、俺の隣で大声を出す竹下。


俺はビクッと肩が上がった。


「竹下。お前、誰を呼んでいるんだ?」


「んー? そこらへんにいるスタッフさん」


そう言うと、竹下はスタスタと会場内に足を踏み入れてしまった。


「ちょっ」


部外者が勝手に入っていいのか?


まだ設営中なのに。


慌ててヤツを追いかけようとしたけど、足が止まった。


竹下が声をかけたのは、あろうことに菜穂だったからだ……。


「へぇー、今度の金土日で花のフェスタがあるんすかー。

出店も沢山あるんだ。

じゃあ俺、金曜の会社帰りに来ようかなー。

なぁ、日生ー。

お前も行かない?」


そう言って、こちらを振り返る竹下。


その言葉で、菜穂も俺の方を向いた。


菜穂が目を見開く。


俺と菜穂との距離は離れていたけど、お互いのことをじっと見ていた。
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