私たちの六年目
俺のワケのわからない回答に、梨華は首を傾げるばかり。


「俺、多分……。

もう随分前からその人が好きだったんだと思う。

その人と一緒にいることが、あまりに自然過ぎて気づいていなかったんだ。

だけど、梨華と付き合うことになって、その人に会えなくなると。

俺……、その人のことばかり考えてて……。

会いたくて、話したくてたまらなかった。

昨日どうしても会いたくなって、その人に会いに行ったんだ。

そうしたら、やっとわかったんだ。

俺は、恋愛感情でこの人が好きなんだって……」


大学2年の夏、菜穂とキスをしたのも。


俺の部屋でキスをしたのも。


好きだったからしたんだ。


身体は正直に菜穂を求めていたのに。


頭はそのことに、全然気づいていなかったんだ……。


「一緒にいることが自然過ぎたって。

付き合いの長い人なの……?」


梨華の問いに、俺はゆっくりと頷いた。


「長いし、頻繁に会ってたよ……」


大学では、休日を除くほぼ毎日。


卒業してからも、毎週のように会っていた。


「だけど、私と付き合うことになったから、会えなくなった……?」


そう言った後、梨華がハッとしたように顔を上げた。


「ね、ねぇ……。

まさかその女の人って……」


梨華は、もうわかっているようだった。


本当に、そういう勘だけは凄まじい。


「そう……。


俺が会いに行った人は……。


菜穂だよ……」

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