私たちの六年目
「だけど……、もう遅いわよ……」


ただでさえ重たい空気に、梨華がさらに重圧を与える。


「そんなに秀哉が好きなら、菜穂は早く秀哉に告げるべきだったし。

秀哉だって……。

私にプロポーズする前に自分の気持ちに気づくべきよ」


「それはそうだけど……。

でも、まだ遅すぎることはないはずだろう?

俺と菜穂は、これからだって始められる……!」


こんなにも菜穂が愛おしくて。


俺の全部で菜穂を大切にしたいって思ってる。


これから、いくらだって愛し合えるはずなんだ。


「だから、もう遅いって言ってるじゃない」


「遅くない」


「遅いわよ。だって私と秀哉の婚約は、もう成立しているんだから。

それを引き裂こうとするなら、菜穂は立派な泥棒猫だわ」


「何だよ、それ……」


泥棒猫だなんて……。


菜穂は、そんな子じゃない。


「とにかくダメだから。

もう菜穂に会っちゃダメ。

私、もうすぐここへ引っ越して来るんだし。

秀哉の両親にも会うんだから」


肩で息をしながら、苦しそうに訴えかける梨華。


梨華は梨華なりに必死なんだ。


お腹の子を守るために……。
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