私たちの六年目
「俺、梨華のことを愛してないんだよ。

そんなんで俺と一緒になって嬉しいのか?」


結婚した相手が別の人を想っているなんて。


そんな結婚が成立するわけがない。


「梨華だって、俺のことなんか好きじゃないだろう?」


「そんなことない。

昨日、ちゃんと好きって言ったわ」


確かに、梨華は昨日俺を好きだと言った。


でもあれは、結婚を辞めようって言った俺を繋ぎ止めるための言葉だった。


あのキスだって、ちっとも心なんてこもっていなかった。


「梨華の言う“好き”は、都合の良い“好き”であって、別に俺自身が好きなわけじゃない。

俺を、便利な道具にしか考えてないんだよ」


俺をアテにして何が悪いんだって、開き直ったように梨華はそう言った。


あれが全てで、梨華の本音なんだ。


「大体さ……。

梨華には、他にいるだろう?

本当に好きなヤツが……」


「は……?」


首を傾げる梨華。


わかっていないのか?


自分の気持ちが。


いや、わかっているけれど。


目を逸らしているんだ……。



「梨華が本当に好きなのは……。



そのお腹の子の父親だろう?」

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