私たちの六年目
「最初はね、一夜だけの過ちだったのかなって思ってたの。

でも彼はその後も連絡をくれて、何度も私の部屋で会うようになった。

私ね、奥さんは大丈夫なの?って何度も聞いたのよ。

そうしたら彼、いつも言ってた。

もう妻のことは愛してない。

好きなのは、梨華だよって。

すごく驚いたけど、でも……。

なんだか嬉しかった……」


男との思い出を懐かしそうに話す梨華。


俺は、そんな彼女をじっと見ていた。


「もう奥さんを愛してないなら、別れたらいいのに。

彼はそうしようとはしなかった。

その理由は、みんなにも話したけど。

彼には、二人の子供がいるから。

奥さんのことは好きじゃなくても、子供のことはすごく大切だったの。

それは、私も理解出来るし。

だから仕方ないのかなってあきらめてたんだけど。

でも……」


「でも……?」


「会えば会うほど、彼を好きになっちゃって……。

彼の前では絶対にわがままを言わなかったけど、本音では奥さんと別れて欲しかった……」


初めて不倫を告白した梨華が、どこか寂しそうに見えたのはそういうことだったのか。


割り切っているような言い方をしていたけど。


実際は……。


別れて欲しいと願っていたんだな……。
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