私たちの六年目
「菜穂……」


私の隣に腰を下ろしている秀哉が、私の顔を見ながらせつなそうに私の名前を呼んだ。


その顔には疲れが見えていた。


きっとここへ来るまで、色んなことがあったんだろう。


さらには梨華のお腹が急に痛み出して、どうしていいかわからずに、不安でいっぱいだったに違いない。


「菜穂の顔見たら、なんかホッとした……」


少しだけ笑顔を見せてくれる秀哉。


手を繋ごうとお互いに手を伸ばしたその時。


「すみません」と、後ろから声をかけられた。


ビクッとして振り返ると、そこには事務員さんらしき女性が立っていた。


「吉見さんの婚約者の方ですよね?」


そう聞かれて、私も秀哉も一瞬で固まってしまった。


「入院のしおりをお持ちしました。必要なものもこちらに書かれているのでご用意ください。

あと、この入院申込書ですが、こちらはお早めにご提出ください。

身元引受人の欄には、婚約者様のお名前をご記入ください」


「あの、俺は……」


“婚約者じゃありません”


そう言いたそうな秀哉だったけど。


事務の人が間髪を入れずに淡々と説明を続けるから。


とてもじゃないけど、そんなことは言えそうになかった。
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