私たちの六年目
「と、とりあえず入院に必要なものは、私が用意するね」


気まずい空気を引き裂くように、口を開いた。


必要なものは洗面道具やタオル、下着や着替えだよね。


秀哉だときっとわからないだろうから、それは私がするとして。


「だけど、その書類はどうしたらいいのかな……」


入院の身元引受人って、患者本人が万が一入院費を払えない時、代わりにそれを支払うんだよね。


梨華って、ちゃんと保険に入っているのかな。


入っているとしても、保険会社からお金が振り込まれるまでには時間がかかるはず。


だから、病院に支払うお金は一旦自分で準備しないといけないわけだけど。


こんな綺麗な個人病院、一体一泊いくらするんだろう。


入院が長引いたら、相当な額になるはず。


秀哉の話だと、梨華はもうほとんど貯金がないらしいし。


そうなると、支払うのは身元引受人の欄に名前を書いた人になってしまう。


それを秀哉に書かせるなんて、そんなこと。


絶対にしたくない……。


「秀哉は婚約者じゃないんだから、その欄に名前を書く義務はないよ。

だから、絶対に書かないで」


「うん……。もちろんそのつもりだけど。

でも、どうしたらいいんだろう。

早く提出しないといけないのに……」


そうだよね。


そんなに時間はないんだよね……。


だったら……。


「ねぇ、秀哉」


「何?」


「もうこうなったら……。


梨華の両親に連絡するしかないと思う……」
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