私たちの六年目
「え……?」


驚愕の表情を浮かべる梨華。


そんな梨華の顔を見ながら、私は話を続けた。


「だから梨華、今ならまだ充分に間に合うよ。

手術を受ければ、もうこんなつらい入院生活なんてしなくて済むし、仕事にも復帰出来る。

結婚もしなくていいし、すぐにでも気楽な日常生活に戻ることが出来るんだよ。

だから、早く手術の手続きをしようよ。

私が先生に話して来るね」


そう言って立ち上がると、梨華が突然バシッと私の腕を掴んだ。


「何を言ってるの? 菜穂……」


「何が?」


私はとぼけた顔をして見せた。


「いやよ、そんなの。絶対いや!

赤ちゃんを中絶しろだなんて。

なんでそんな残酷なことが言えるの?

菜穂がそんなひどい人だと思わなかった……っ」


私の腕を掴む梨華の手がブルブルと震えている。


私はそんな梨華を見下ろしながら、フンと冷たく息を吐いた。


「残酷……? 私が……?」


「そうよ! 残酷よ! 赤ちゃんを殺そうとしてるんだもの」


静かな個室。


私の腕を掴んだままの梨華と私は、じっと睨み合っていた。


「残酷なのはどっちよ」


「え……?」


くしゃっと顔を歪める梨華。


もう、本当に我慢ならない……。


私の怒りは、ピークに達していた。


「あんた、いい加減に目を覚ましなさいよ!」


私はそう言うと、梨華の手をバシッと振り払った。
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