ビターのちスイート
「いえいえ、気にしないで下さい。体調が悪かったのだから、仕方のないことですよ」
杏奈が幸弘を表参道で見かけたあの日、本来ならば撮影の空き時間に、マリアはマネージャーと買い物に行く予定だったのだが、当日マネージャーの体調が優れず、それを知った幸弘が、マリアの買い物に付き合っていたのだった。
「それで、これお礼なんですけど……」
そう言ってマリアが差し出したのは、文庫本サイズの青い箱。
「今日、バレンタインデーだったので、チョコレートです」
「いいんですか? いただいても」
「もちろんです。あ、でも、彼女さんとかに怒られたりしちゃいます?」
マリアの言葉に、幸弘は首を横に振る。
「本命チョコならお断りするところなんですけど、お礼チョコなら大歓迎です。うちの彼女、チョコ大好きなんで、いい土産になりますよ」
「ホントですか。よかったあ」
「……それに、木下さんにはしっかり本命もいらっしゃることですし」
「赤瀬さん。それ絶対誰にも言っちゃダメですよ!?」
表参道での買い物中、父親へのプレゼント以外にもマリアは買い物を済ませていた。
それを目ざとく見つけた幸弘に、マリアが告げたトップシークレットの情報は、幸弘の目を丸くさせたものだった。
「これから会いに行くんですか?」