ビターのちスイート
「杏奈の言ったとおりだ」
「ん?」
「いえ。なんでもないです。川崎さんのおっしゃる通り、今朝杏奈の家に行ったら杏奈はいませんでした。代わりに、俺が杏奈の部屋に置いていた私物が段ボール箱にまとめられていました」
「は? 高梨そんなことまでやってたのか?」
「……ええ。俺の耳に入るのを予想してか、仲のいい友達にも何も言ってなかったみたいです」
「一応聞くが……。赤瀬くん、高梨以外に女は?」
「いるわけないじゃないですか!」
表情も変えず淡々と質問をする川崎に、反論する幸弘の声も大きくなる。
「じゃあ、高梨がそこまでする理由に心当たりは?」
「……仕事を理由に、杏奈と向き合う時間を作っていませんでした。多分、そのあたりが原因だと思います」
幸弘の言葉に、川崎はニヤリと口の端を上げた。
「わかってんだったら、ちゃんと話し合え。高梨の性格は俺よりも知ってるよな? 人に遠慮して、中々思っていることを言わない奴だろ」
「はい。わかっていたのに、俺はそんな杏奈に甘えてました。杏奈に会ったら、まずは謝って、それからちゃんと話を聞きます」
幸弘は川崎をまっすぐに見つめ、堂々と宣言した。
真剣な目の幸弘に、川崎は杏奈が今、旅行に言っていることを告げた。