ビターのちスイート
確かめあう気持ち
「今度はもう少し時間を取った旅行に行きたいわね」
「そうだね。今度はお父さんも一緒に、昔家族で行ったところとかに行ってみたいな。私、広島に行ったときに食べたお好み焼き、すっごく美味しかったこと覚えてるもん」
マレーシアからの帰りの飛行機の中で、杏奈は母親と旅の感想を言い合っていた。
あっという間の三日間だった。
思いきってスマートフォンの電源を切り、カバンの隅へ隠しておいた三日間。
幸弘のことは意識的に考えないようにしていたけれど、ふとしたときに杏奈の脳裏には幸弘の笑顔が浮かんでいた。
幸弘のことを断ち切ろうと思って旅に出たのに、結果的には幸弘への思いを自覚することになる旅だった。
帰ってから、どうしようかと考えながら杏奈が目を閉じると、横から母が声を掛けてきた。
「ねぇ、杏奈」
「ん?」
「幸弘くんと、何かあった?」
核心をついたような母の言葉に、杏奈は目をパチッと開ける。
「え? どうしてそう思うの?」
「あら。図星だった? しいて言うなら、そうねぇ。杏奈の口から幸弘くんの名前が一度も出なかったことと、杏奈が一回も携帯の電源を入れなかったことかしら」
黙りこくった杏奈を見て、母が「私の推理、大正解ってところかしら」とクスクス笑う。