ビターのちスイート
「何があったのかはわからないけど。あなたは誰にも言わずに物事を決めちゃうことがよくあるから、ちゃんと話し合ったほうがいいわよ」
「さすがお母さんだね。幸弘と話してないっていうところまで当たってるよ」
「それは困ったわ。私、幸弘くんが息子になってくれるものだとばかり思ってたのに」
ニコニコと話す母を見て、杏奈は幸弘と母の初対面の瞬間を思い出していた。
挨拶をした瞬間、『まあ、男前。お母さんの好みピッタリだわ』と発言した母は、杏奈と違って思ったことははっきりと口に出すタイプだ。
「……私も、この三日間、誰とも連絡が取れない状態にしてて、気づいた。幸弘に何も聞かずにこのままっていうのはやっぱりダメだなって。別れることになったとしても、幸弘と話してからじゃないと」
「別れる前提で話さないでよ。まあ、杏奈はお母さんの娘だし可愛いから、次の相手も見つかるとは思うけど」
しっかりと自分のことをアピールしてくる母の言葉に杏奈は思わず吹き出す。
「私の気持ちをわかってくれてないところはあっても、幸弘がいい男なのはわかってるよ。それに、私がちゃんと思ってることを言わないから幸弘がわかってくれないってことも、今回のことでよくわかった」
「そこまでちゃんと考えているのなら、大丈夫よ」
母がそう言った瞬間、機内に着陸態勢に入ったアナウンスが流れてくる。
杏奈は自分のシートベルトをもう一度確認し、母へと笑顔を向けた。
「お父さんが車で迎えに来てくれてるけど、一緒に乗って帰る?」
「うーん。いいや。終電までまだ時間があるし、電車で帰る」
羽田空港に到着した杏奈は、母の誘いを断り、ひとりで家へ帰ることにした。