ビターのちスイート

『自分勝手なことばかり言ってるのはわかってる。でも、ちゃんと会って話したい』

謝ってばかりの幸弘のメッセージに、思わず杏奈は憎まれ口を叩いてしまう。

「こんなに謝るなら、最初からするなっつーの」

「ホントにそうだよな。ごめん」

びっくりして振り返った杏奈の視線の先には、幸弘が立っていた。

メッセージを読んでいくのに集中していたため、部屋に入ってきた幸弘にも気づいていなかったらしい。

部屋の電気をつけた幸弘は、言いにくそうに口を開く。

「杏奈、あのさ……」

「待って。最初に私の話を聞いてもらってもいい? 幸弘の話聞いちゃったら、私の気持ち伝えられなくなりそうだから」

「わかった」

幸弘は、杏奈の言葉に大きくうなずき、そっと杏奈の隣に腰を下ろした。

「幸弘が秋に異動になってから、中々連絡くれなくなったでしょ? 私、幸弘が仕事を頑張ってるのわかってたし、そのことについては不満はなかったの。そりゃ、時々は幸弘から電話の一本くらい掛けてきてよって思ったことはあったけどね」

杏奈は、ゆっくりと自分の言葉を選びながら話していく。

幸弘は、そんな杏奈をただ黙って見守っていた。

「何か違うな、って思いだしたのは今年の年末なの。幸弘、友達と旅行に出掛けたでしょ?」
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