ビターのちスイート
「それは、仲間の一人が年明けから外国に行くから、送別会も兼ねてって説明して。杏奈も納得してくれてただろ?」
「頭ではわかってたつもりだったけど、やっぱり寂しかったの。だって、旅行に行く予定を立ててたってことは、その友達とは連絡取り合ってたってことでしょ?」
杏奈の追及に幸弘は黙り込む。杏奈の言うことはもっともなことだったからだ。
渋い顔をする幸弘の視界に、寂しそうに笑う杏奈が映る。
「それで、幸弘にとっての私って何なんだろうって思ってきちゃって……。一度思い出すとダメだね。もうマイナスなことしか思い浮かばなくなって。だから、私決めたの。バレンタインまでは私から幸弘に連絡を入れるのは止めようって。何も言わなくても、幸弘なら何か勘づいて私と話そうと思ってくれるかなあって、そう思ったの」
そこまで聞いた幸弘は、フウッと深く息を吐いた。
「俺、情けない奴だな。杏奈は俺の気持ちをわかってくれてるって勝手に思い込んでた。杏奈にならどんなにワガママを言っても、甘えても大丈夫だって、そう思ってた」
「幸弘……」
「俺がワガママ言いたい日があるってことは、杏奈にだってそういう日はあるもんな。俺が受け止めてやらないといけない日もあるのに、俺は自分のことばっかで……。本当にごめん」
深々と頭を下げる幸弘の姿に、杏奈の心はズキッと音を立てた。
「それでね、幸弘。私あとひとつ、あなたに聞きたいことがあるの」
「聞きたいこと?」
「二月の初めに、木下マリアと表参道を歩いていたよね? 彼女とはどういう関係?」
「どういうって、単なる仕事関係の知り合いだけど?」
飄々と言う幸弘に、杏奈の目は丸くなる。