ビターのちスイート
「杏奈?」
「今までマメじゃなかった幸弘に、そんなすぐには望みません。だから、私が、幸弘にやってほしいことはちゃんと伝えていく。それで言い合いになったって、ちゃんと納得いくまで話し合おう」
杏奈が幸弘の胸の中から顔を上げると、優しい瞳の幸弘と視線がぶつかった。
「思い出したよ。この家を決めたときのこと」
「え?」
「忙しくても会える距離に住もうって話し合って、同じ駅で部屋見つけたっていうのに、これだけ会えてなかったら何の意味もないよな」
「ううん。私も幸弘に遠慮して会いに行かなかったのもいけないの。だから、これからはバンバン押し掛けるからね」
杏奈がそう言うと、何かを考えていた幸弘がニンマリと意地の悪い顔を浮かべた。
「俺の荷物まとめてくれてるし、いっそのこと一緒に住むか?」
「そうだね……って、え?」
「一緒に住めば、とりあえず朝と夜の二回は顔を合わせられるし、いいんじゃないか?」
嬉しそうな幸弘とは反対に、杏奈は渋い顔を浮かべる。
何が一緒に住む、だ。
付き合いだして十二年、もっと他に何か言うことがあるだろう、と杏奈が心の中で悪態をついていると、不意に鼻を幸弘につままれた。
「まーた、自分ひとりで何か考えごとして。思ったことはちゃんと言うんじゃなかったのかよ」