ビターのちスイート
「……別に。相変わらずマイペースな人だなあって思ってただけよ」
「杏奈が思ってることはなんとなく予想はつくけど。それはもう少し後にしてくれないか?」
「……え?」
「この状態でそれを言うのは、俺的にちょっとカッコ悪いから。一生に一度のことだから、カッコつけさせてよ」
それだけ言うと、幸弘はプイッと顔を逸らしてしまう。
杏奈から見える左耳はほんのり赤く染まっていて、杏奈はフフッ、と小さく笑い、再び幸弘の胸の中に飛び込んだ。
「その時は、私が今まで見てきた中で一番の男前の幸弘を期待してるね」
「ハードル上げやがったな」
「フフッ。この数ヶ月、私はずーっと悩まされてきたんだから、今日くらいはこれくらいの意地悪、いいでしょ?」
杏奈の言葉に、幸弘は困った顔を浮かべ、「参りました」と両手を上げたのだった。
「だけど、幸弘。大丈夫?」
「何が?」
「明日、じゃない。もう今日だよね、月曜日。仕事じゃないの?」
確かに時間は深夜を回っていて、すでに月曜日。杏奈は月曜日が定休日だが、幸弘は通常仕事に行く日でもある。
「大丈夫。今日は仕事休みをもらっているから」