ビターのちスイート

そんな関係が、社会人になってから少しずつ変わっていく。

バイト先で就職した杏奈は、勤務時間や業務内容に幅が出たものの大きな生活の変化もなく社会人生活を始めることが出来たが、幸弘は違っていた。

新入社員研修を経て、正式に配属され働く。人と人のつながりも、同期たち横のつながりや上司、先輩との縦のつながりも構築していかなければならない。

そんな中で、幸弘からの連絡は学生時代と比べて格段に減ってはいたが、代わりに杏奈が幸弘に負担のないタイミングで連絡を取るように心がけていた。

そのおかげでふたりは疎遠になることもなく、付き合いも続けることが出来ていた。

しかし、昨年の十月、幸弘に異動の話が持ち上がった。

今までと少し違う業務内容の部署への異動は、幸弘を更に忙しくさせ、杏奈からの連絡にも中々返事を返すことが少なくなってくる。

少し不安を覚えつつも、杏奈は不安をかき消すようにいつもと変わらず幸弘に連絡を取り続けていた。

そしてやってきた年末年始。杏奈は販売業なので、三十一日から二日までの三日間しか休業日がなかったが、幸弘は特に仕事が入らなければカレンダー通りの企業に勤めている。

一週間近くの大型連休の中で、さすがに会う約束も取りつけることが出来るだろうと思っていた杏奈に、幸弘から久々に電話での着信が入った。

心の中で盛大に期待して電話口に出た杏奈に告げられたのは、『ごめん、杏奈。今年の正月は、友達と海外に行ってくるから会えない』という非常な一言。

今まで仕事が忙しいからと思って、デートを断られても我慢してきた。

返信がなくなって、寂しいと思う気持ちを隠してきた。

だからせめて、しっかり休みが取れたのであれば、自分と過ごす選択をしてほしかった。

そこで杏奈は決意した。
< 4 / 48 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop