ビターのちスイート

「この調子じゃすっかり忘れてたみたいだな。あーあ、彼氏もかわいそうに」

「だって向こうもそんなこと一言も言ってなかったし」

「あんだけ真っ青になってたら、彼氏も忘れてたんだろうな」

川崎の言葉に杏奈の動きが止まる。

「え? 店長、幸弘に会ったんですか?」

「さぁ、どうだったかな」

「はぐらかさないで下さいよ」

「杏奈さんが休んでるとき、うちの店に来ましたよー、エセ爽やか彼氏」

するとそこへ、通りかかった本山が間延びした声を掛けて通り過ぎていく。

「そんなこと一言も言ってなかった……」

「あんな情けない姿見せたなんて、言えないだろうよ」

「店長何か言いました?」

ポツリ、とつぶやいた川崎の声は杏奈には届かなかったようだ。

「……いや、何も。ま、食べたら感想聞かせてくれ」

「わかりました。ありがとうございます」
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