ビターのちスイート
「わかった。楽しみにしておくし、うちのエセ爽やかにも伝えておく」
「杏奈さん、そのエセ爽やかってとこ否定しないんですね」
「うーん、ま、十二年一緒にいるからねぇ。猫被ってるなあって思うことは時々あるから」
「うわ。杏奈さんも言うときは言うんですね」
「あら。こんな私はお気に召さない?」
「まさか。ギャップのある人に惹かれるのは、男も女も一緒ですよ」
冗談めかして杏奈が言うと、本山は大きな口で笑ったのだった。
閉店作業を終えた杏奈がスマートフォンを見ると、そこには幸弘からの『仕事終わった後、杏奈のところに寄ってもいいか?』というメッセージ。
『大丈夫だよ』と返事を返し、杏奈は浮かれそうになる気持ちを抑えながら帰路へと着く。
杏奈が最寄り駅の改札を抜けると、そこには幸弘が立っていた。
杏奈は小走りで幸弘の元へと向かう。
「おかえり、杏奈」
「どうしたの、こんなところで」
「杏奈からの返事もらったタイミング考えたら、駅で一緒になるんじゃないかって思ったからさ。杏奈のこと、少し待ってみたんだよ」
「珍しい。明日、槍でも降るんじゃない?」