ビターのちスイート

「ひどい言い草だな」

杏奈の言葉に、幸弘は顔をしかめる。

「でも、うれしかったよ。ありがとう」

幸弘の腕にそっと自分の腕を絡めて、杏奈は微笑む。

幸弘も笑顔になり、ふたりは杏奈のマンションに向かって歩き出した。

「ねぇ、幸弘。ご飯どうする?」

「それなら、これ。買ってきたんだ」

幸弘が手にしていたのは、有名百貨店の紙袋。

「ここのデパ地下の惣菜が美味しいってうちの職場の人たちが話してたからさ、杏奈と一緒に食べようかなと思って買ってきたんだ」

「確かにここのお惣菜、評判いいよね。この間雑誌でも紹介されてたから気になってたの」

「そっか。毎日は無理だけど、時々こういうのもいいかもな」

「そうだねー」

他愛のない話をしていると、幸弘が言いにくそうに杏奈のことを呼んだ。

「あのさ、杏奈……」

「どうしたの? 改まっちゃって」
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