ビターのちスイート
「いや。こんなこと聞くのもどうかと思うんだけどさ。俺、やっぱり今年は杏奈からチョコレートもらえないのかな」
思いもよらなかった幸弘の言葉に、杏奈は動きを止め、目を丸くした。
そして、幸弘の言葉の意味を理解できた瞬間、ケラケラと笑いだした杏奈とは対照的に、幸弘は耳を真っ赤に染め上げていた。
「ハハハハッ。幸弘、そんなにチョコ好きだったっけ?」
「いや、チョコがというか、なんというか……」
「ヤバイ、笑い過ぎてお腹痛くなりそう」
「何だよ、そんなに笑うなよっ!」
「ごめん、ごめん。でも、幸弘が中学生みたいなこと言うから、可愛くて……。幸弘?」
黙ってしまった幸弘の腕を、杏奈が軽く揺らすけれど、幸弘はそっぽを向いて動かない。
滅多に見ることのない幸弘の姿を見て、杏奈はクスリ、と小さく笑みをこぼし、幸弘の向いている方向へ自分の体を傾けた。
「幸弘。こっち向いて」
「嫌だ」
「そんなこと言わないでよ。私、嬉しかったんだから」
幸弘と視線が合い、杏奈はカバンの中から川崎にもらった試作品のチョコレートを取り出した。
「実を言うとね、いつもの限定ショコラはお客様に譲っちゃって、手元にないの」