ビターのちスイート
「……そうだよな。杏奈、俺と別れようと思ってたんだもんな」
「ごめん。それで、今日店長がこれを渡してくれるまで、バレンタインデーのことも幸弘に渡すチョコがなくなってることも、すっかり忘れてました……」
「マジか……、いや、でも俺に杏奈を責める資格はないよな。むしろ、ねだる俺のほうが間違ってた。ごめん」
杏奈に続き、幸弘も頭を下げていると、行き交う人々が何事かと遠巻きに見ている気配に気づき、ふたりは顔を見合わせ吹き出した。
「何やってんだか、俺たち」
「ホントだね。さっさと家に帰ろう」
そう言って、杏奈は幸弘に、試作品が入った箱を手渡した。
「店長が感想聞かせてくれって言ってたから、後で一緒に食べよう?」
「どんな味がするんだろうな。美味いのは間違いないだろうけど」
「ビターな感じとは言ってたけど、詳しくは聞いてないの」
そう杏奈が言うと、幸弘はしばらく何かを考えていたが、小さく微笑み笑い声を発した。
「どうしたの、急に笑って」
「ビターチョコって、今の俺たちにぴったりだなあって」
「え? どんなところが?」
幸弘の言っていることが杏奈にはさっぱり理解できず、杏奈は首を傾げる。