ビターのちスイート

「最後に甘さがやってくるじゃん。俺たちも、お互いのことをわかってるつもりで話してなくてほろ苦な状態になったけど、今はほら、こんなに甘くなってる」

そう言うと、幸弘は杏奈の手を握る力を少しだけ強くした。

そんな幸弘に、杏奈も笑顔を返す。

「ビターの後にくるスイートか。幸弘、今の部署に行ってからちょっとセンス上がったんじゃない?」

「そんなこと言ってくれるの杏奈だけだよ。まだまだ勉強することはいっぱいだ」

「……勉強もいいけど、私のことも忘れないでよね」

「もちろん。杏奈だって俺のこと、見捨てないでくれよ」

「それは今後の幸弘次第」

少しだけ意地悪な顔で杏奈が言うと、幸弘は苦笑い。

「杏奈が気持ちをはっきり言ってくれるようになったのは嬉しいけど、強さが倍増してんなあ」

「私が強くなったら悪い?」

「まさか。そういう杏奈も愛してる」

突然の幸弘の告白に、杏奈の顔が真っ赤になる。

「幸弘、不意打ちは反則だよぉ」

「ほら、杏奈も今の気持ちを正直に。早く早く」

形勢逆転とばかりに攻め立てる幸弘に対し、小さくため息をつき、杏奈は幸弘の正面へ回り込んだ。

「私も幸弘のこと、愛してますっ!」

少しだけ背伸びをして、幸弘の唇へ自分の唇を押し付ける。

一瞬幸弘が息をのむ音が聞こえてきたけれど、それは本当に一瞬のこと。

行き交う車のライトに照らされるまでの数十秒、ふたりは空白の時間を埋めるように優しいキスにおぼれたのだった。

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