ビターのちスイート

交際十二年の記念日でもある二月十四日、バレンタインデーまで、幸弘には自分から連絡を入れないということを。

もし、それまでに幸弘から連絡があれば、幸弘に対して不満に思ったことを正直にぶつけて、ふたりの将来についてしっかり話し合おうと思っていた。

だけど今日、杏奈は見てしまったのだ。幸弘が他の女性と仲良く歩く姿を。

バレンタインデーまであと二週間。

相変わらず杏奈のスマートフォンに、幸弘からの連絡がくることはなかった。





幸弘と女性のツーショットを目撃してしばらくしてから、仕事の休みに杏奈は部屋の大掃除をしていた。

「意外とあるんだなあ、幸弘の荷物」

就職と同時に始めたひとり暮らし。

当然、幸弘もこの部屋に何度も足を運んでいる。

洋服や生活用品、至るところに幸弘の私物が転がっている自分の部屋を見て、杏奈は幸弘と本当に長く付き合っていたんだなあと感じていた。

幸弘の私物を、店からもらい受けた段ボール箱に詰め込んでいく。

これは、杏奈にとってのXデーである二月十四日に向けた準備の一環だ。

幸弘から連絡がなければ、そのままこの段ボール箱ごと幸弘の家に送り、別れを告げる。

本当はこの準備もギリギリまでしようと思っていなかったけれど、綺麗な女性と二人で歩く光景を見てしまった今、心はズキズキ痛むけれど体はテキパキと動いてしまう。

次から次に、幸弘の荷物を段ボール箱に投げ込んでいると、いつの間にか時刻は十二時を指していた。
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