ビターのちスイート
「あれ、もうお昼? 早いなあ」
杏奈は床から立ち上がり、大きく伸びをする。
しばらく座ったまま作業をしていたせいか、腰が固まっていてバキッと音が鳴った。
昼食は何にしよう、と杏奈が冷蔵庫を覗き込んでいると、不意にリビングのテーブルに置いてあったスマートフォンが着信を告げた。
かすかな期待を込めて小走りで近づいた杏奈は、液晶に出ている名前を見て大きなため息をつき、応答する。
「お母さん、どうしたの?」
『ごめんね、突然。杏奈、今日仕事休みだったわよね。今大丈夫?』
「うん、平気」
電話口の母の声は、なんだかいつもよりもテンションが高いような気がする。
母の話をゆっくり聞こうと思い、中腰だった杏奈は、ソファに腰を落ち着かせた。
『ねぇ、杏奈。バレンタインデー終わったらゆっくりできるの?』
「……実は今回、十五、十六日と連休でお休みもらってるんだ」
彼との別れの為に、とは言えず少々苦笑いを浮かべながら杏奈が答えると、母から安心したような声が返ってきた。
『ちょうどよかった。実はね、懸賞で旅行券を当てたのよ』
「え? それすごいじゃない!」