【完】好きよりもキスよりも…
お互いにまだ、さっきの余韻を残しながらも桂木に促されて、先に向かったという他のメンバーの待つ遊覧船乗り場まで向かうことにする。


ホテルから出てすぐにある坂を降りていくと、すぐに遊覧船の停泊しているのが見えた。
地図で見てると大したことないって感じだけど、こうして肉眼で見てみると、結構広い。
そんなに天気がいいわけじゃなくて、時折太陽に雲が掛かってしまうけど。
オレの手を握ってる新條の表情が、段々とキラキラしてきて。


第一章の、冒頭の台詞になるわけ。


「あやちゃん!早くイこ?」


乗り場に着くとすぐ、オレの手をきゅっと握り締めてくる新條。
大きなお目々をクリクリさせてオレを下から見つめてくる仕草は、いつの間にか新條がオレにオネダリする時の癖になっていて。新條に関しては、理性なんてすっごい薄っぺらいんだろうなぁってくらいのオレは、簡単に堕ちちゃうんだよね。
違う意味で、イキたくなっちゃうのは…さすがにこんな所で口に出して言えない…。
だって、オレの言葉に真っ赤になって、わたわたと反応してくれる新條を見られるのは嬉しいんだけど、今日は外野が多過ぎるから。


「おーい、俺らと一緒に座ろうぜー?」


と、先に乗り込んでる田浦たちに、そう声を掛けられると、いつもならそれに凄い勢いでOKと返事するのに、今日は手にきうっと力を込めて、呟いた。


「あやちゃんは、あたしと一緒だよね?」


あのね、朱莉サン?
そんな捨て猫みたいな顔されて、そんな可愛いコト言われたら、元々離すつもりはないんだけど、尚更離せるわけないでしょう?


「うん。一緒だよ?」


気を緩ませるとすぐにでもニヤけてしまいそうな顔を、新條には気付かれないようにして。
そう言いながら微笑むと、雲の間から差し込んできた光りを受けながら新條が笑ってくれる。


……なんか、ねぇ?


旅行に来て、オレ自体も変になってるのかも。
普段から色んな顔を見せてくれる新條だけど。
ほんと、一秒ごとに「好き」が増すことなんてあるんだねぇ…。
こんなに好きにさせてどうするつもりよ?
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