没落貴族の娘なので、医者として生活費を稼いでいます!
シエルとハルが昼食をとっていた頃ーーー


「ラシェル殿下っ、どこにおられたのですか!?探していたのですよ!」

広く長い王宮の廊下を歩いていたカルミア王国の第一王子ラシェルは、自分を呼ぶ声を聞き振り返る。
振り返る仕草までが気品にあふれ、美しい。この場に貴族の娘たちがいれば感嘆のため息をついたであろう。


「ああ、セインか」

「ああ、セインか。じゃありません!どこにいらしたのですか!!」

「例の診療所に」


将来この国の王となるラシェルの一番の理解者は、幼い頃から一緒に育ってきたセインといっていい。しかしそんなセインでも理解できない行動をラシェルはたまにとる。

「・・・ラシェル殿下、行くならせめて護衛を・・・!」

「護衛なんてつければすぐに身分がばれる」


王都ミミルで一番貧しい第四区で、ものものしい騎士たちを護衛につけて歩いていれば確かに身分はすぐにばれるだろう。ラシェルの言い分もわからなくはないが、ラシェルの身に何かあってからでは遅いのだ。

「せめて私くらいは連れて行ってください」

「おまえはあの令嬢が嫌いだろう?」

あの令嬢とはレティシア子爵家の第一子で、現在第四区唯一の医者であるシエルのことだ。
以前ラシェルとセインが訪れたとき、シエルとセインはまったく相性が良くなかった。


「確かにあの令嬢とは気が合いそうにありません。しかしそれとこれは話が別です。殿下があそこへ行かれるなら着いていきます!」

昔から王族がどれほど尊い存在か教え込まれてきたセインにとっては、ここで引くわけにはいかない。

(もしあの令嬢が殿下に毒を盛ったら?いや、気にくわないと口ではいいながらも本当は王妃の座を狙っていて殿下をたぶらかすこともあり得る)

今はまだ現国王も元気なので、ラシェルが王になるのはまだ先だ。
しかし、ラシェルが即位したとき一番の側近としてどんな仕事もこなさなくてはならないセインは、あらゆる可能性を考えておかなくてはならない。だから突然現れた町で医者をする変わり者の子爵家令嬢はセインにとってやっかいな存在で、怪しい存在。ラシェルの殺害を企てていると疑いを持っている。
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