没落貴族の娘なので、医者として生活費を稼いでいます!
「それじゃあ今日はこれでおしまい。ありがとねハル、ノーラさんの分まで働いてくれて」

「いえ、患者さんを看れない自分にできることは限られていますから」


診察が終了したあと、みんなでお茶を一杯飲むーーーこれはこの診療所ができたときからの決まり事だ。
その日の患者さんのこと、最近の流行、国内外の情勢、話すことは様々だがこの時間はこの診療所で働く人間にとって大切なことなのだ。

今日はノーラがいなかったので、ハルとシエルの二人だけで飲んでいる。


「そういえば今日本当に大丈夫でしたか?」

「え?」

「この前の失礼な貴族が来たんでしょう?」

「ああ、全然大丈夫だったよ。彼本当に不眠のようだったからちゃんとみてあげた」

この前は嘘だろうと思って断ったが、あの時ちゃんとみてあげたら良かったなと思う。
そういえば今日は銀髪の青年はいなかったが、おいてきたのだろうか。二人は友人というより主従関係があるようにみえたから、護衛がいないのは問題だったのでは・・・


「シエルさん?」

「ああ、ごめん。何もないよ」

いらないことを考えていたらハルに心配されてしまった。

「・・・シエルさんは優しいですね」

「え?」

この世に生まれて18年。子供らしくない、愛想が良くないなどは言われてきたが優しいなんて初めていわれた。


「私は・・・優しくなんかない」

そう、私は優しくなんてないんだ。家のために働くなんていってオーガストに弟子入りしたけれど、弟子入りしてから独り立ちまでの数年間は家族に相変わらず苦しい生活を強いた。
本当は10歳の時点でレティシア子爵家より財力も権力もある、伯爵家や侯爵家の息子と婚約すればそれですむ話だったのだ。

10歳でぱっぱと婚約者を決めていたら、その時点で婚約者の家から援助を受けることが可能になるし、医者の収入よりも多くの資金が得られただろう。

それでも私は婚約するといわなかった。周りからみれば家のために自分を犠牲にしたお嬢様かもしれないけれど・・・ただ私は逃げたのだ。婚約から。
< 40 / 49 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop