一昔前の、中学生活

第六節 今俺がやるべきこと

『梨々の好きな人は、優くんなの………』


梨々の言葉が、俺の耳の奥で何度もこだました。


「そっか………」

咄嗟に、そんなことしか言えなかった。


本当は、何かもっとリアクションをとるべきなのだろうけど、どのようなリアクションをとるべきなのかすら全く分からなかった。

もはや、頭が真っ白になっていた。


「ふふふっ驚いたでしょ？だって梨々、今まで絶対誰にもバレないようにしてきたんだもん」


俺が作った沈黙を破る梨々の明るい声で、やっと俺の頭が思考を開始した。


「うっ、うん！びっくりだなー！全然気づかなかったよ！」

「隼くんは鈍感そうだからねー！でも優くんってこういうの敏感そうじゃない？」

「そっ、そうかもね！あっ、でも今回はどうなんだろう？ほら、さっきだって分かってなさそうだったよ？」

「そっかぁ………なら良いんだけど……」


なんとなく、梨々が俺に望んでいることが何かが分かってしまった気がする。


今まで誰にも気づかれないようにしてきたのに、この場で敢えて俺に言うんだ。


多分梨々は……………


「………梨々さん、もし……もし俺で良かったら、俺、梨々さんと優の間に入って色々協力するよ？」


多分、俺に援助を求めているのだろう。


「えっ……いいの？隼くん！？」

「勿論！優となら10年近い付き合いだし、優のことも沢山知ってるし……」

「ありがとうっ！凄く助かるよ！」


梨々は頬を赤くして心底嬉しそうにそう言った。


「凄いや、隼くん！今から梨々が頼もうとしてたことを先に言ってくれるなんて！」

「いや、恋愛の時には異性の相談相手がいると成功率は高くなるって五郎が言ってたんだ……」

「五郎くんが！？」

「うん…………それに……………」


正直、まだ自分の気持ちを落ち着けきれてもいないし、整理しきれてもいない。


でも…………

「それに、梨々さんのこと、応援したいから……折角俺と優は仲が良いんだ。俺に出来ることは、何でもしたいよ………」


そう、これは決して嘘や偽りではない。

梨々の好きな人が自分ではないと分かった今、ｼｮｯｸや動揺がないと言えばそれこそ嘘になる。

でも、俺は本当はに梨々の幸せを願うし、梨々が何か悩んだり、困ったりした時には助けたいと思う。


梨々は、優が好きなんだ。



このことが決定した今、俺のとるべき行動は自ずと決まった気がする。


好きな人の幸せを願う…………


その気持ちは、押さえつけたりしなくても良いはずだから。


だから………

「何でも俺に相談してよ！俺、二人のこと応援するね！」


梨々が安心して俺を頼れるようにしないと。