一昔前の、中学生活
第五節 秘めたる想いは…
「五郎くんでしょ?あんたのペア」
少しの間の沈黙を破ったのは、小春の言葉だった。
「ああ。そうだけど?」
「彼、優くんの超熱血みっちり指導を受けてたみたいね。毎日毎日。」
「らしいな。よくやるよなぁ、あいつも。」
「あの二人って見かけによらず負けず嫌いで実は熱血よね。」
「だから超絶面倒くせぇこともある........」
「ははっ。確かにどっちも頑固だしね。熱いからこそ思いを譲れないのかしら。」
「あいつらの『思い』とか.....なんか柄じゃねぇな。」
「ふふっ、確かにそうね。想像すると面白いわ。」
そんな会話をしながら、俺らはしばらく歩いた。
こいつって、こんな感じのくだらない会話も案外続くんだなー。
意外と笑ってくれるし。
そんなことを考えると、また「何よ。」とか言われそうなので、咄嗟に話題を作る。
そうして30分ほど歩いたところで、小春の家に着いた。
白を基調とした、シンプルな洋風の家だ。
中からは家族らしき人の声がいくつも聞こえる。
「うちはね、大家族なのよ。両親に母方の祖父母、それに兄弟も私合わせて5人いるの。総勢9人家族。すごいでしょ?」
「おう、すげぇな。だからこんなに家広えのか?」
「そうね。やんちゃ盛りの男兄弟もいるしね。走り回れるくらいじゃないとねー」
「お前は何番目なの?」
「私は三番目。丁度真ん中よ。」
「かーっ。苦労してるだろうなぁ」
「どうかしら。多分世間のイメージほど、真ん中は辛くはないわよ?」
「そんなもんなのか...」
こんな会話をしていたら、俺らの存在に気づいたらしい小春の家族が家の中から手を振っているのが見えた。
なるほど、確かによく動きまわりそうな男の子が二人いるな。
小春は彼らに手を振り返して、不意にこっちへ向き直った。
「じゃあね。つい長話しちゃったわ。今日はありがとね、送ってくれて。男テニのきつい練習の後だっていうのに。感謝してるわ。」
「べっ、別にいいよ。俺も一人で帰るよか、その、楽しかったし」
小春が急に素直になったことに驚いて、つい俺も動揺を隠しきれていないまま返してしまう。
「じゃあ、明日はお互い頑張ろうね!」
「ああ。いけるとこまでいこうぜ。」
「ええ。それじゃ、気をつけて。おやすみなさい。」
「じゃあな。おやすみ。」
俺は短くそう言って、踵を返して帰り道へと進んだ。
後ろからは、玄関を開けた小春を迎え入れる家族の声がした。
とてもにぎやかで、暖かくて、楽しそうだった。
今日は色んな発見があったな...........
家族の様子をちらりと見たことで、普段はわりと謎に包まれてるアイツの、日常の一部を垣間見た気がする。
アイツ、あんなあったけー家族と暮らしてるんだな。
時々見せる上品さは、あの豪華な造りの家が表していたな。
一緒に帰るのは初めてだけど、別れ際、あんなに名残惜しそうにするんだ..........
無意識のうちに歩く速度が速くなっているのが分かる。
..........さっきからうるせーんだよ、俺の心臓。
頬が熱いのが、触らなくてもわかるんだよ。
頭ン中なんでアイツの笑顔ばっかりなんだよ。
最後の少し甘えたような声。
ずっと耳の中でこだましてんだよ。
.......クソっ..........
笑顔、甘え、家族....
普段見ないものを見た途端、またこんなに意識しちまうなんて....
.......ちくしょう........
やっぱ、好きだ。
俺は、小春を好きなんだ。
でも.............
でも、叶わない......................
そしてアイツも、叶わないんだ.............
自分から話題に出してきたくせに........
すぐに逸らす.........
もう、わかってんだろ?あいつだって........
不毛なんだって.......
無理なんだって.........
それを知ってて、なんで...........
悔しい。
悔しすぎて、拳を握って歯を食い縛っていた。
初夏の夜道。
遠くから聞こえる蛙の声。
閑静な住宅街の暗い道に残すのは、仄かな明かりとよく似た思い。
消えそうなそんな明かりを、月だけが見ていた。
少しの間の沈黙を破ったのは、小春の言葉だった。
「ああ。そうだけど?」
「彼、優くんの超熱血みっちり指導を受けてたみたいね。毎日毎日。」
「らしいな。よくやるよなぁ、あいつも。」
「あの二人って見かけによらず負けず嫌いで実は熱血よね。」
「だから超絶面倒くせぇこともある........」
「ははっ。確かにどっちも頑固だしね。熱いからこそ思いを譲れないのかしら。」
「あいつらの『思い』とか.....なんか柄じゃねぇな。」
「ふふっ、確かにそうね。想像すると面白いわ。」
そんな会話をしながら、俺らはしばらく歩いた。
こいつって、こんな感じのくだらない会話も案外続くんだなー。
意外と笑ってくれるし。
そんなことを考えると、また「何よ。」とか言われそうなので、咄嗟に話題を作る。
そうして30分ほど歩いたところで、小春の家に着いた。
白を基調とした、シンプルな洋風の家だ。
中からは家族らしき人の声がいくつも聞こえる。
「うちはね、大家族なのよ。両親に母方の祖父母、それに兄弟も私合わせて5人いるの。総勢9人家族。すごいでしょ?」
「おう、すげぇな。だからこんなに家広えのか?」
「そうね。やんちゃ盛りの男兄弟もいるしね。走り回れるくらいじゃないとねー」
「お前は何番目なの?」
「私は三番目。丁度真ん中よ。」
「かーっ。苦労してるだろうなぁ」
「どうかしら。多分世間のイメージほど、真ん中は辛くはないわよ?」
「そんなもんなのか...」
こんな会話をしていたら、俺らの存在に気づいたらしい小春の家族が家の中から手を振っているのが見えた。
なるほど、確かによく動きまわりそうな男の子が二人いるな。
小春は彼らに手を振り返して、不意にこっちへ向き直った。
「じゃあね。つい長話しちゃったわ。今日はありがとね、送ってくれて。男テニのきつい練習の後だっていうのに。感謝してるわ。」
「べっ、別にいいよ。俺も一人で帰るよか、その、楽しかったし」
小春が急に素直になったことに驚いて、つい俺も動揺を隠しきれていないまま返してしまう。
「じゃあ、明日はお互い頑張ろうね!」
「ああ。いけるとこまでいこうぜ。」
「ええ。それじゃ、気をつけて。おやすみなさい。」
「じゃあな。おやすみ。」
俺は短くそう言って、踵を返して帰り道へと進んだ。
後ろからは、玄関を開けた小春を迎え入れる家族の声がした。
とてもにぎやかで、暖かくて、楽しそうだった。
今日は色んな発見があったな...........
家族の様子をちらりと見たことで、普段はわりと謎に包まれてるアイツの、日常の一部を垣間見た気がする。
アイツ、あんなあったけー家族と暮らしてるんだな。
時々見せる上品さは、あの豪華な造りの家が表していたな。
一緒に帰るのは初めてだけど、別れ際、あんなに名残惜しそうにするんだ..........
無意識のうちに歩く速度が速くなっているのが分かる。
..........さっきからうるせーんだよ、俺の心臓。
頬が熱いのが、触らなくてもわかるんだよ。
頭ン中なんでアイツの笑顔ばっかりなんだよ。
最後の少し甘えたような声。
ずっと耳の中でこだましてんだよ。
.......クソっ..........
笑顔、甘え、家族....
普段見ないものを見た途端、またこんなに意識しちまうなんて....
.......ちくしょう........
やっぱ、好きだ。
俺は、小春を好きなんだ。
でも.............
でも、叶わない......................
そしてアイツも、叶わないんだ.............
自分から話題に出してきたくせに........
すぐに逸らす.........
もう、わかってんだろ?あいつだって........
不毛なんだって.......
無理なんだって.........
それを知ってて、なんで...........
悔しい。
悔しすぎて、拳を握って歯を食い縛っていた。
初夏の夜道。
遠くから聞こえる蛙の声。
閑静な住宅街の暗い道に残すのは、仄かな明かりとよく似た思い。
消えそうなそんな明かりを、月だけが見ていた。