一昔前の、中学生活

第十四節 新たな目標

※五郎side※


「っっ、、、ちくしょうっ、、、、」


ほぼ全コートにて第2試合が終わり、いよいよベスト8決めへと進むころ。


俺と瑠千亜は敗者審判を終え、コートから自分たちのテントへと歩いていた。


「瑠千亜、そんな泣くなって!お前らは十分すげえよ」

「そうだよ!相手はこの学園の4番手だぜ?団体メンバーなんだぜ?そんな相手から2セットも取っただけですげえよ」

「また次があるだろ。そん時にはもっと上へ行けるさ」


泣きじゃくる瑠千亜へ同輩たちが慰めの言葉を掛ける。



俺達は第1試合を奇跡的に勝ち抜いたものの、次に当たった同校対決ではセットカウント2-4で敗北したのだ。


正直に申すと、俺は初心者かつ初試合であるが故にこの結果に悔いは残るがむしろ驚きの方が大きいのだが、ペアの瑠千亜はそうもいかぬらしい。

試合前にも言い争ったように、瑠千亜は小学校の頃から全国区で活躍していた選手だ。

それなのに、中学へ入ってこれほどまで自分たちよりも強い選手が沢山いて、地区大会で負けるなどといったことは考えられぬことなのかもしれん。

だからこそ、言葉にもできず、ひたすら涙を流すしかない程悔しいのだろうが、、、



「瑠千亜。皆の言うとおりだぞ。俺はお前のお陰でこんなハイレベルな大会で2回も試合が出来た。お前に対しては感謝しかしとらん。だからこそもっと勝って、お前に恩返しがしたかった。少しでも長くお前と試合がしたかった。それなのに、こんなところで負けてしまったのは、紛れもなく俺が初心者で、まだまだお前のペアとしての力量が足りなかったからに他ない。その点に関しては、本当に頭が上がらぬ思いだ、、、」



毎日優の特訓を受けたとは言え、何年もテニスに打ち込んできたこいつらと肩を並べる程にはまだまだ及ばぬのが実情である。

「だから俺は、これから更なる努力をして、お前と胸を張って大会に出場したい。優に頼らんでも、ひとりでに強いプレイヤーになるべく出来る限りのことをしたい。そしてゆくゆくは、お前と共に全国を制したいとも思っている。この大会での悔しさが、新たな目標となったのだよ。」



瑠千亜は聞いているのか聞いていないのか、相変わらず下を向きタオルに顔を押し当てながらすすり泣いている。

珍しく素直に気持ちをさらけ出してみたというのに、、、



「だからいつまでも泣いているな。これ以上メソメソしているようでは、俺にあっという間にぬかれるぞ。」


瑠千亜が顔を上げる。

込上がる感情のせいか、はたまたタオルを押し付けた自身の力加減のせいか、俺を睨みつける顔は赤い。


「同校の先輩に負けて悔しがっているお前が、俺ごときに負けても良いと考えるはずがなかろう。それみろ。思惑通り、顔を上げたな。」



敢えて少し挑発的に言ってみる。


案の定、


「ほんっと、ムカつくやつだな、、、」

とポツリと呟き、ゴシゴシと持っていたタオルで顔中を覆っていた涙を拭いた。




「誰がオメーみたいな堅物女好き変人初心者に負けるか。俺は今度こそは隼と優を倒すって決めてんだよ。」

「俺が持っていてお前が持っていない要素をふんだんに詰め込んだな。」

「要素とかじゃねーよ。悪口詰め込んだんだっつーの。、、、ったく、、、はぁ、もう、、、結局こーやってお前のペースに持ち込まれんだよなー、、、」

「光栄とまではいかぬがまあまあ嬉しい言葉だな。」

「褒めてねーよ。おめぇといるとシリアス展開もあっとゆーまに茶化されるって言ってんのー」

「ププッ。、、、おっと、すまない。瑠千亜がシリアスだなど、滑稽、いや、コミカルな、、」

「どっちにしろ失礼だわ!、、、ったく、お前こそもっとこう、負けて悔しい!みたいなのねぇのかよ?」

「悔しいに決まっているだろう。何事でも勝負に負けて悔しがらぬのは男としてその性を疑うぞ。」

「、、、の割りには随分けろっとしてるよーに見えるけど?」

「単に感情を出すか出さぬかの違いだろう。俺は内に秘めたるパッションがあるのだ。」

「なんか言い方気持ちわりい、、、」



気がつくと既にテントに着いていて、俺らの会話を苦笑いしながら聞いていた同輩たちもいつの間にか周りから居なくなっていた。

きっと、次に始まる隼たちの試合の応援に行ったのだろう。



「俺たちもダラダラとしてないで早く隼たちの応援に行かねばならぬな。」

マネージャーが予めテントへ運んできてくれたラケットやら飲み物やらを自分の鞄へしまいながらポツリと言った。


「ああ。分かってるよ。、、、、、ああ~、、、やっぱいいなぁ~次の試合があるってのは、、、」


未だに落胆した瑠千亜が再び目頭を押さえて呟く。


「、、、7月の大会こそは、最後まで残るぞ」


7月には一年生大会というものがある。

公式戦では戦えない一年生も、無条件で試合に出られる大会である。

勿論、この学園の一年生は誰もがその大会での優勝を目指している。



「俺も今更ながら改めて悔しいぞ、、、もう試合がないというのは、、、」



コートから少し離れた場所にあるテントは、誰もいないせいもあってやけに静かである。

遠くから聞こえる声援と選手たちの声、ボールを打つ音。

疎外感、、、という程でもないが、一抹の寂しさが襲うのは確かである。




「、、、、、あのさ、お前がさっき言ってたこと。あれ絶対違うから。」



しばしの沈黙の中、瑠千亜が突如言った。



「さっき言ってたこと?」

「お前が、、、初心者だからそのせいで負けた、ってやつ、、、あれ違うからな。俺のペアが誰であろうとさっきの試合は負けてたから。、、、つーか、ペアがお前じゃなければ1回戦勝ってねーからな。」



先ほどまでの落ち込みようとは打って変わったかのような強い語感で言い切った。

目を充血させながら、まだ涙を含んだような声で。



「俺は、、、お前とじゃなきゃ、一年生大会優勝できねーと思ってるから!」


言い逃げかのような勢いでそう言い残してテントを後にした。

全く。照れ隠しが分り易すぎるぞ。


珍しく素直な時はいつも子供のように一方的に言い募って逃げるのが常套手段だからな。仕方あるまい。



フっ、と自然と笑みが溢れる自分がいた。




まさか、あいつも俺と同じように思っていたとはな。


普段互いの本音を言い合わぬ分、誤解を生みやすくなってしまうのも仕方のないことだ。




それでも、だからこそ、本音を言い合ったときは、その類似性に驚くものである。

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