一昔前の、中学生活
第五節 様々な出会い
「おい、隼。俺の新しい友達を紹介するよ。」
無事に入学式も終わり、今から俺達新入生に初めてのホームルームがあるからといって再び自分たちの教室に集められていた。
「あ、うん!」
自分の席に座って梨理と話をしていた俺も、優と一緒にいる数人の男子に合わせてその場に立ち上がった。
「・・・ん?お前・・・あ!もしかして!」
優の左隣りにいた、小柄で背の低めな男子が、俺と目が合った瞬間指を指して驚いたように声を上げた。
「お前もしかして、醍醐隼だな!?」
「うん!・・・って、あれ!?もしかして嵯峨瑠千亜(さが るちあ)くん!?」
初対面のはずの俺と彼が、一目にしてお互いを認知していることに周りは驚きと疑問を隠しきれない顔をしていた。
「あの、小学校の頃に・・・その・・・」
疑問符を浮かべている優とその他の男子、そして梨理と清和さんに説明しようとしたが、少し戸惑ってしまう。
「醍醐隼ー!!お前だけには勝てなかった!『延喜宮のブラックスワロー』!!」
「そういう君は『貞観宮のクロコダイル』だろ?」
「ああ!そうだ!ちくしょー!!俺の全勝の記録をまんまと破りやがって!だかしかし、ここであったが幸運!今こそ俺の実力はお前には劣らない!絶対にリベンジしてやる!」
「ちょっ、やめてよ!俺は今は完全に足を洗ってるし!二度と喧嘩なんてする気もないから!」
そう、今の会話でだいたい予想はついただろうが・・・
言いにくいが、彼は・・・
「ああ。隼のヤンキー時代の対戦相手か。」
優がさらりと言ったが、その通りです・・・
実は、俺は色々な事情があって、小学校のころ少しいわゆる不良と呼ばれる者であった時期もあった。
「えっ!?ちょっ、隼くんって元ヤンなの?」
当然のように清和さんが驚く。
隣りにいる梨々も、目を見開いて驚きを隠せない様子だ。
「うん・・・まあ、ね?」
「えっ、超意外なんだけど!どっからどう見ても爽やか少年じゃん!」
「確かに見えなーい!今はこんなに優しい雰囲気なのに!」
清和さんに続いて梨々も言う。
「ちょっと待てよ、お前ら!俺は?俺だって全然見えないだろうが!」
「え、ちょっと、隼くんとあんたを一緒にするつもり!?冗談じゃないわよ~」
「ああ!?どういう意味だよ!」
「まあ確かにアル意味ヤンキーなんてしてたくらいの男らしさとかには欠けるよね!」
「おまっ・・・気にしていることを!」
「落ち着きないと思ってたのよ!さっき窓際で話しているときから!」
「なんだとー!!!」
さすが、ズバズバ言うタイプの清和さんだ・・・
初対面の瑠千亜にも言いたいことをどんどん言っている。
「こら、騒ぐな瑠千亜。お前のそのガキっぽさが舐められる原因なんじゃないのか?」
「あん!?言ってくれたな?優!お前こそ落ち着きすぎなんだよ!ジジイか!ったく、年頃の中学生には見えないぜ!」
「ガキよりはましだろう」
「フザケンナ!ガキじゃねえー!」
今度は優に挑発され、ムキになって怒っている。
「ふふっ、瑠千亜くんって面白い!」
そんな瑠千亜の様子を見て、梨々は笑いながら言った。
「えっ、そうか?」
満更でもないように急に大人しくなって言葉を返す瑠千亜。
「うん!なんか、クルクル動き回ってて見てて全然飽きない感じ!」
「ふっ、バカにされてるんじゃないのか?瑠千亜」
「違うよ、優くんったら!」
「ほれみろ!俺様の魅力に気づく女子もいるんだよ!」
瑠千亜が得意そうに鼻を鳴らして言った。
確かに、俺も梨々に同感だ。
昔から知ってはいたが、瑠千亜は常に明るくて、物事一つ一つに喜怒哀楽が激しいから、見ているひとはなんだか目を離せなくなる。
小さな体であれこれと頑張るタイプだから、憎めないやつだ。
「覚えておけよ!醍醐隼、冷泉優!俺はこの学園ではお前らなんか比じゃないくらいモテてやるんだからな!」
「勝手にしろ。あいにくそういうのには興味がない」
「く~!そういうすかした面が気にくわないぜ!」
なんだか、瑠千亜と優はそれこそさっき仲良くなったとは思えないやりとりをしていた。
そんな2人をとても微笑ましそうに見つめる梨々。
そういえば、俺の過去を知って梨々は引かなかっただろうか・・・
あまり誉められたことじゃない過去だから・・・
そんな心配をしていたら、不意に梨々と目が合った。
「それにしても隼くん、喧嘩も強いんだね!何かかっこいい!」
俺の心配とは真逆に、梨々はニッコリと笑ってそう言ってくれた。
「あ、ありがとう!」
照れと安堵を隠しながら短く答えた。
良かった・・・
引かれてないみたいだ・・・!
「むっ?またそうやって誉められて調子に乗るんだな?醍醐隼!くそっ!やっぱりお前とはもう一度決戦をしなきゃならないみたいだな!」
「だから、俺はもう喧嘩はしないよ!それより、同じクラスでまた会ったのも何かの縁だよ!仲良くしていこう?」
「むう・・・色々と負けないからな!これも敵観察のためだ!」
「だからもう敵でもないって!」
そう言いながら瑠千亜は差し伸べた手を取って握手に応えてくれた。
やっぱり根は優しくて人間が好きなやつなんだな・・・
「男同士の友情か・・・まあまあ決定打にかけるな・・・」
瑠千亜と握手をしていたとき、今まで腕を組みながら時々長いまばたきをして優の隣に何も言わずに立っていた、長髪を後ろで一つにまとめた男子がゆっくり口を開いた。
「・・・はい?」
清和さんが不思議そうにまじまじと彼を見ながら言った。
「しかしそちらの茶髪の方。・・・いや、小さい方じゃなくてだな、」
「誰が小さいだとこらー!!!」
「ふふ。失礼失礼。」
気にしていることを言われた瑠千亜に掴みかかられても、その男子は気にする様子もなく黒い長髪を揺らしてサラリと交わした。
「あの・・・俺がどうかしましたか?」
さっきの言葉の続きが気になったので聞いた。
「いや~・・・入学早々暑苦しい漢友情を見せられたと思ったがね、よく見れば君、美しい外見をしているではないか」
「えっ!?」
「つまらない応酬の終止符か・・・」
「えっ、あの・・・ちょっと・・・」
「おい、止めろ五郎。初対面からいきなり何してるんだ。ファーストインプレッションが最悪だぞ」
俺に近づき俺の顎に手を当てていた彼に優が言った。
「おっと、これも失礼。なにかい?優、一丁前にジェラシーか?」
「ふざけたことを抜かすな。」
「心配しなくても大丈夫だぞ。俺は君みたいな趣味じゃな・・・」
「過去の悪行をバラされたくなかったら無言で隼から離れろ。」
彼が何か言いかけたところで優が彼の首を後ろからつかんで言った。
珍しく優が動揺してるようなんだけど・・・どうしたんだろう?
「まあ、皆既に引いているようだな。さすがにこれ以上印象を悪くしては幼なじみといった優の顔に泥を塗ってしまうな。」
「既に塗られたよ」
「そういわずに。改めて俺は朱雀五郎(すざく ごろう)だ。優とは家も近くて昔からの友人だ。ちなみに俺の家は先祖代々伝わる茶道の家本だ。美味しい本格茶が飲みたければいつでもどうぞ。優を見ていて、興味が沸いたんでテニス部に入ろうと考えている。あ、恋愛についてはノーコメントで。別に優みたいじゃないからな、本当」
「いい加減にしろ。」
「だからさっきからちょいちょいでてくる優くんの件はなんなのよ本当」
2人のやり取りに呆れ気味で清和さんがツッコミを入れた。
確かに俺も気になる。
なんか、優のジェラシーとか趣味とか・・・?
「・・・まあ、こんなもんか。どうぞ宜しく。」
「よろしく!」「よろしくね」
そうだ!今はそんなことを考えてる場合じゃない!せっかくの出会いのチャンスなんだ。
「ところで、朱雀くんのお家って茶道やってるんだね!梨々お茶大好きだから行ってみたーい!」
梨々が目を輝かせながら言った。
「本当か?嬉しいな。実は最近女性の客足が遠のいてきているからな。しかし梨々さん、うちの茶は貴女には少々苦すぎないかと心配なんだが・・・」
「ううん!大丈夫だよ!だって梨々お茶ならどんなものでも大好きだもん!」
「そうか。それなら安心だ。早速今週末にでもどうだ?あ、勿論皆も来ないか?」
「えっ!?いいの?ありがとう!俺も行きたい!」
「言っておくが、五郎の煎れる茶は文句無しの代物だぞ。」
「えっ!?朱雀くん自分でお茶を煎れるの?」
優の発言に驚いた俺と梨々がほぼ同時に聞いた。
「うむ。一応跡取りだからな、茶の一つも煎れれんで茶道の家本だなどと語れないだろう。」
「すごーい!」
梨々が心底感心したように声を上げる。
「どうしよう、あたし、大丈夫かな・・・あんまり苦いもの得意じゃないんだ・・・」
意外にも不安げにそう言ったのは清和さんだった。
「ならば甘めの菓子を出そう。茶を飲む時に菓子が付くのは、茶の苦味を和らげるためなのだ。」
「へー!それなら大丈夫かも!」
「良かった。後は菓子を出すタイミングを少しずらせばきっといけるだろう。」
「お菓子のタイミングなんてあるんだー?凄いね、本当に茶道に打ち込んでる感じだわ」
清和さんも頷きながら感心している。
・・・なんか、凄いな・・・
初対面の人とは少し緊張してカタコトになっちゃう俺と違って、朱雀くんって・・・
「初めて会った人じゃないみたいに皆と接するんだね・・・」
「まあな。天性のカリスマ性ってヤツだ。」
「あれっ!?俺口に出してた?」
「ああ。朱雀のことだろ?一見長髪でいつぞやの侍みたいな話し方でいきなりとんでもない発言する変人だが、いつのまにか皆あいつについて行くんだ。」
「うんうん、確かに!」
少し先に視線を送ると清和さんと梨理と楽しそうに談笑する姿が見えた。
「あいつの人気は老若男女だが、あの綺麗な顔立ちだ。特に女子からの支持が多いな。」
「えっ、てことはつまり・・・」
「そうだ。ノーコメントの恋愛事情の中身はとんでもない数のラブストーリーって訳だな。」
「・・・ちくしょ、また一人敵が増えやがった」
ボソッと瑠千亜が何か呟いていた。
無事に入学式も終わり、今から俺達新入生に初めてのホームルームがあるからといって再び自分たちの教室に集められていた。
「あ、うん!」
自分の席に座って梨理と話をしていた俺も、優と一緒にいる数人の男子に合わせてその場に立ち上がった。
「・・・ん?お前・・・あ!もしかして!」
優の左隣りにいた、小柄で背の低めな男子が、俺と目が合った瞬間指を指して驚いたように声を上げた。
「お前もしかして、醍醐隼だな!?」
「うん!・・・って、あれ!?もしかして嵯峨瑠千亜(さが るちあ)くん!?」
初対面のはずの俺と彼が、一目にしてお互いを認知していることに周りは驚きと疑問を隠しきれない顔をしていた。
「あの、小学校の頃に・・・その・・・」
疑問符を浮かべている優とその他の男子、そして梨理と清和さんに説明しようとしたが、少し戸惑ってしまう。
「醍醐隼ー!!お前だけには勝てなかった!『延喜宮のブラックスワロー』!!」
「そういう君は『貞観宮のクロコダイル』だろ?」
「ああ!そうだ!ちくしょー!!俺の全勝の記録をまんまと破りやがって!だかしかし、ここであったが幸運!今こそ俺の実力はお前には劣らない!絶対にリベンジしてやる!」
「ちょっ、やめてよ!俺は今は完全に足を洗ってるし!二度と喧嘩なんてする気もないから!」
そう、今の会話でだいたい予想はついただろうが・・・
言いにくいが、彼は・・・
「ああ。隼のヤンキー時代の対戦相手か。」
優がさらりと言ったが、その通りです・・・
実は、俺は色々な事情があって、小学校のころ少しいわゆる不良と呼ばれる者であった時期もあった。
「えっ!?ちょっ、隼くんって元ヤンなの?」
当然のように清和さんが驚く。
隣りにいる梨々も、目を見開いて驚きを隠せない様子だ。
「うん・・・まあ、ね?」
「えっ、超意外なんだけど!どっからどう見ても爽やか少年じゃん!」
「確かに見えなーい!今はこんなに優しい雰囲気なのに!」
清和さんに続いて梨々も言う。
「ちょっと待てよ、お前ら!俺は?俺だって全然見えないだろうが!」
「え、ちょっと、隼くんとあんたを一緒にするつもり!?冗談じゃないわよ~」
「ああ!?どういう意味だよ!」
「まあ確かにアル意味ヤンキーなんてしてたくらいの男らしさとかには欠けるよね!」
「おまっ・・・気にしていることを!」
「落ち着きないと思ってたのよ!さっき窓際で話しているときから!」
「なんだとー!!!」
さすが、ズバズバ言うタイプの清和さんだ・・・
初対面の瑠千亜にも言いたいことをどんどん言っている。
「こら、騒ぐな瑠千亜。お前のそのガキっぽさが舐められる原因なんじゃないのか?」
「あん!?言ってくれたな?優!お前こそ落ち着きすぎなんだよ!ジジイか!ったく、年頃の中学生には見えないぜ!」
「ガキよりはましだろう」
「フザケンナ!ガキじゃねえー!」
今度は優に挑発され、ムキになって怒っている。
「ふふっ、瑠千亜くんって面白い!」
そんな瑠千亜の様子を見て、梨々は笑いながら言った。
「えっ、そうか?」
満更でもないように急に大人しくなって言葉を返す瑠千亜。
「うん!なんか、クルクル動き回ってて見てて全然飽きない感じ!」
「ふっ、バカにされてるんじゃないのか?瑠千亜」
「違うよ、優くんったら!」
「ほれみろ!俺様の魅力に気づく女子もいるんだよ!」
瑠千亜が得意そうに鼻を鳴らして言った。
確かに、俺も梨々に同感だ。
昔から知ってはいたが、瑠千亜は常に明るくて、物事一つ一つに喜怒哀楽が激しいから、見ているひとはなんだか目を離せなくなる。
小さな体であれこれと頑張るタイプだから、憎めないやつだ。
「覚えておけよ!醍醐隼、冷泉優!俺はこの学園ではお前らなんか比じゃないくらいモテてやるんだからな!」
「勝手にしろ。あいにくそういうのには興味がない」
「く~!そういうすかした面が気にくわないぜ!」
なんだか、瑠千亜と優はそれこそさっき仲良くなったとは思えないやりとりをしていた。
そんな2人をとても微笑ましそうに見つめる梨々。
そういえば、俺の過去を知って梨々は引かなかっただろうか・・・
あまり誉められたことじゃない過去だから・・・
そんな心配をしていたら、不意に梨々と目が合った。
「それにしても隼くん、喧嘩も強いんだね!何かかっこいい!」
俺の心配とは真逆に、梨々はニッコリと笑ってそう言ってくれた。
「あ、ありがとう!」
照れと安堵を隠しながら短く答えた。
良かった・・・
引かれてないみたいだ・・・!
「むっ?またそうやって誉められて調子に乗るんだな?醍醐隼!くそっ!やっぱりお前とはもう一度決戦をしなきゃならないみたいだな!」
「だから、俺はもう喧嘩はしないよ!それより、同じクラスでまた会ったのも何かの縁だよ!仲良くしていこう?」
「むう・・・色々と負けないからな!これも敵観察のためだ!」
「だからもう敵でもないって!」
そう言いながら瑠千亜は差し伸べた手を取って握手に応えてくれた。
やっぱり根は優しくて人間が好きなやつなんだな・・・
「男同士の友情か・・・まあまあ決定打にかけるな・・・」
瑠千亜と握手をしていたとき、今まで腕を組みながら時々長いまばたきをして優の隣に何も言わずに立っていた、長髪を後ろで一つにまとめた男子がゆっくり口を開いた。
「・・・はい?」
清和さんが不思議そうにまじまじと彼を見ながら言った。
「しかしそちらの茶髪の方。・・・いや、小さい方じゃなくてだな、」
「誰が小さいだとこらー!!!」
「ふふ。失礼失礼。」
気にしていることを言われた瑠千亜に掴みかかられても、その男子は気にする様子もなく黒い長髪を揺らしてサラリと交わした。
「あの・・・俺がどうかしましたか?」
さっきの言葉の続きが気になったので聞いた。
「いや~・・・入学早々暑苦しい漢友情を見せられたと思ったがね、よく見れば君、美しい外見をしているではないか」
「えっ!?」
「つまらない応酬の終止符か・・・」
「えっ、あの・・・ちょっと・・・」
「おい、止めろ五郎。初対面からいきなり何してるんだ。ファーストインプレッションが最悪だぞ」
俺に近づき俺の顎に手を当てていた彼に優が言った。
「おっと、これも失礼。なにかい?優、一丁前にジェラシーか?」
「ふざけたことを抜かすな。」
「心配しなくても大丈夫だぞ。俺は君みたいな趣味じゃな・・・」
「過去の悪行をバラされたくなかったら無言で隼から離れろ。」
彼が何か言いかけたところで優が彼の首を後ろからつかんで言った。
珍しく優が動揺してるようなんだけど・・・どうしたんだろう?
「まあ、皆既に引いているようだな。さすがにこれ以上印象を悪くしては幼なじみといった優の顔に泥を塗ってしまうな。」
「既に塗られたよ」
「そういわずに。改めて俺は朱雀五郎(すざく ごろう)だ。優とは家も近くて昔からの友人だ。ちなみに俺の家は先祖代々伝わる茶道の家本だ。美味しい本格茶が飲みたければいつでもどうぞ。優を見ていて、興味が沸いたんでテニス部に入ろうと考えている。あ、恋愛についてはノーコメントで。別に優みたいじゃないからな、本当」
「いい加減にしろ。」
「だからさっきからちょいちょいでてくる優くんの件はなんなのよ本当」
2人のやり取りに呆れ気味で清和さんがツッコミを入れた。
確かに俺も気になる。
なんか、優のジェラシーとか趣味とか・・・?
「・・・まあ、こんなもんか。どうぞ宜しく。」
「よろしく!」「よろしくね」
そうだ!今はそんなことを考えてる場合じゃない!せっかくの出会いのチャンスなんだ。
「ところで、朱雀くんのお家って茶道やってるんだね!梨々お茶大好きだから行ってみたーい!」
梨々が目を輝かせながら言った。
「本当か?嬉しいな。実は最近女性の客足が遠のいてきているからな。しかし梨々さん、うちの茶は貴女には少々苦すぎないかと心配なんだが・・・」
「ううん!大丈夫だよ!だって梨々お茶ならどんなものでも大好きだもん!」
「そうか。それなら安心だ。早速今週末にでもどうだ?あ、勿論皆も来ないか?」
「えっ!?いいの?ありがとう!俺も行きたい!」
「言っておくが、五郎の煎れる茶は文句無しの代物だぞ。」
「えっ!?朱雀くん自分でお茶を煎れるの?」
優の発言に驚いた俺と梨々がほぼ同時に聞いた。
「うむ。一応跡取りだからな、茶の一つも煎れれんで茶道の家本だなどと語れないだろう。」
「すごーい!」
梨々が心底感心したように声を上げる。
「どうしよう、あたし、大丈夫かな・・・あんまり苦いもの得意じゃないんだ・・・」
意外にも不安げにそう言ったのは清和さんだった。
「ならば甘めの菓子を出そう。茶を飲む時に菓子が付くのは、茶の苦味を和らげるためなのだ。」
「へー!それなら大丈夫かも!」
「良かった。後は菓子を出すタイミングを少しずらせばきっといけるだろう。」
「お菓子のタイミングなんてあるんだー?凄いね、本当に茶道に打ち込んでる感じだわ」
清和さんも頷きながら感心している。
・・・なんか、凄いな・・・
初対面の人とは少し緊張してカタコトになっちゃう俺と違って、朱雀くんって・・・
「初めて会った人じゃないみたいに皆と接するんだね・・・」
「まあな。天性のカリスマ性ってヤツだ。」
「あれっ!?俺口に出してた?」
「ああ。朱雀のことだろ?一見長髪でいつぞやの侍みたいな話し方でいきなりとんでもない発言する変人だが、いつのまにか皆あいつについて行くんだ。」
「うんうん、確かに!」
少し先に視線を送ると清和さんと梨理と楽しそうに談笑する姿が見えた。
「あいつの人気は老若男女だが、あの綺麗な顔立ちだ。特に女子からの支持が多いな。」
「えっ、てことはつまり・・・」
「そうだ。ノーコメントの恋愛事情の中身はとんでもない数のラブストーリーって訳だな。」
「・・・ちくしょ、また一人敵が増えやがった」
ボソッと瑠千亜が何か呟いていた。