一昔前の、中学生活
第四節 二人きりの空間
「あ、ほら、このコースにボールがきたら大抵相手の前衛は前に出てくるから・・・」
「そしたら梨々は中ロブを上げればいいんだよね?」
「うん!そうすれば相手の後衛はきっと追いつけないからね」
朝のくじ引きで決まったペアごとに解散して、20分が経過していた。
俺と梨々は、2人ともテニスをやっていて、同じ後衛ということで梨々に教えて欲しいと頼まれていた。
「なるほど~!!やっぱり凄いね、隼くん!見えてるねー!」
「そんなことないよ!俺、結構読み過ぎて相手に逆をつかれることもあるし・・・」
「そうなんだー!?でも、全国レベルってやっぱり凄いんだろうな~」
「梨々さんも目指せるよ、全中」
「えっ!?それは言い過ぎだよ~」
「いや、本当に行けるよ!梨々さんすごく上手だし、センスもあるし」
実際、梨々のテニスを今日初めて近くで見たが、びっくりするほど梨々は上手だった。
球は女子にしてはかなり速いし、球の種類も正確なものを沢山持っている。
今度の春の群市大会では、十分に優勝できる実力があると思う。
「ふふっ、ありがとう!隼くんのおかげで少し自信持てた!今日教えてもらったプレイ、次からやってみるね!」
運動をした後だからだろうか、それとも少し照れているのだろうか、梨々は顔をほんのりと赤くして笑った。
「お互い全中目指してがんばろうよ!楽しみながら、ちゃんと勝っていこう!?」
なんだか俺も気分が上がってきた。
だから、それを隠すように・・・とは言わないけど、梨々と同じ夢を目指せるということが、すごく嬉しかったんだ。
「・・・やっぱり隼くん、輝いてる!梨々まで本気で全中目指したくなってきた!!」
「うん、目指そうよ!」
そして、梨々がそれを受け止めてくれることが、物凄く嬉しい。
「ねぇ、隼くん!カラオケ対決しない?」
テニスコートから出て、タオルで顔の汗を拭きながら梨々は明るくそう言った。
「カラオケかぁ!いいね!楽しそう!」
「やった!じゃあ行ってもいいんだね!?」
「うん!初めて行く人の前で歌うのは少し恥ずかしいけど………でも俺も梨々さんの歌声聴きたいし!」
「ほんとっ!?じゃあ梨々、気合いれちゃおっと!」
両手でガッツポーズを作りながら、心底嬉しそうに弾んだ声で梨々は言った。
そんな様子を見て、元々歌うことやカラオケが好きだった俺は更に楽しみになったし、カラオケボックスの中で梨々と二人きりになる……………
そう考えただけで、俺の鼓動は高ぶった。
反面、ドキドキが梨々にバレてしまわないかと少し不安でもあった。
「ねっ、隼くん!何歌う!?」
カラオケボックスの中に入るなり、梨々がはしゃいだ様子でそう言いながら曲を入れる機械を操作した。
「俺が先に歌っていいの?」
「うん!勿論!むしろ、早く隼くんの歌声が聴きたくてしょうがないよ!」
「そう言われたら歌うしかないな~」
「歌って歌って!」
「じゃあ俺はこの曲を歌おうかな!」
俺は最近流行っている男性アーティストの曲を入れた。
「あっ!梨々この曲知ってる!このバンド、凄く曲がいいよね!」
曲を入れた瞬間、梨々が反応してくれた。
「うん!俺このバンド好きすぎて毎日聴いてるんだ!梨々さんも好きなんだ!?」
「好きだよ!でも最近ハマったから、あとでオススメの曲教えてね!」
「勿論!」
そんなやり取りをしているうちにイントロが終わって曲が始まった。
梨々と共通の趣味を見つけられたことが、凄く嬉しかった。
梨々と同じものを好きだと感じられることが、こんなにも嬉しいなんて………
俺が入れた曲がたまたまアップテンポの曲だったこともあり、この嬉しい気持ちのまま歌うとかなり気持ちよく熱唱することができた。
曲が終わり、少しして点数が出てきた。
「97点!?」
梨々が驚きの声を上げた。
「凄いよ隼くん!97点なんて!ほんとに凄いよっ!」
「ありがとう!過去最高記録かも……」
「そうなんだ!?でもほんとに上手だったもんね!梨々感動しちゃったよ!」
「そんなに褒められると照れるよ……」
「だって本当に凄かったもん!」
「ありがとう」
梨々は大きな目をキラキラと輝かせながら何度も凄いと言ってくれる。
梨々の褒め殺しにいつものことながら照れてしまうのを隠しきれない。
梨々は褒め上手だから毎回ドキドキさせられてしまう。
だけど、そんな梨々の様子を見たくてつい何でも頑張ろうと思えるんだ。
「さっ!次は梨々さんの番だね!梨々さんは何を歌うの?」
「梨々はね~……………これっ!」
そう言いながら梨々が入力したのは、大人気中の女性アイドルグループの曲だった。
明るくて軽快なノリのこの曲は、梨々にぴったりの曲だと思った。
曲が始まると、思った通り梨々は綺麗に澄んだ声で歌った。
その声や雰囲気はまるで本物のアイドルのように可愛らしく、何度もドキドキしてしまった。
「梨々さん凄く良かったよ!」
曲が終わった瞬間、俺は少し興奮気味にそう言った。
「ありがとう!でも、点数はどうかな!?隼くんに勝ちたいな~」
梨々がそう言った次の瞬間、梨々の点数が出た。
結果は93点。
「悔しいーっ!!!」
出た瞬間梨々はそう叫んだ。
「もう少しで隼くんに勝てたのになぁ!悔しいっ!」
「いや!でも梨々さん本当に良かったよ!何か、その……本物のアイドルみたいだったよ?」
「本当に!?ありがとうっ!でも悔しいなぁー!」
「じゃあもう一回勝負しようか!」
「えっ!いいの?」
「うん!しようしよう!」
梨々が勝つまでやりたかった。
だって梨々の喜ぶ顔が、見たいから。
梨々の笑顔のためなら、なんだってしたいと思った。
更に、梨々の新たな一面を発見できて、とても嬉しかった。
梨々は意外とかなり負けず嫌いだということが分かった。
きっと、何でも結果を出すことが出来るのも、揺るぎない自分を感じられるのも、梨々のそんな気持ちのお陰なのだろう。
それが分かって、俺は更に梨々を好きになった。
また一つ、梨々の素晴らしい魅力を知ることが出来て、この空間に感謝した。
そして、もっともっと、梨々を知りたいと思った。
梨々の魅力を、まだまだ沢山知りたいと思った。
だからこの時間が、ずっとずっと続いてほしいと思った。
二人きりのこの空間も時間も、俺に梨々をもっと好きにさせた。
もっと…………
梨々を近くで感じたいと思った。
「そしたら梨々は中ロブを上げればいいんだよね?」
「うん!そうすれば相手の後衛はきっと追いつけないからね」
朝のくじ引きで決まったペアごとに解散して、20分が経過していた。
俺と梨々は、2人ともテニスをやっていて、同じ後衛ということで梨々に教えて欲しいと頼まれていた。
「なるほど~!!やっぱり凄いね、隼くん!見えてるねー!」
「そんなことないよ!俺、結構読み過ぎて相手に逆をつかれることもあるし・・・」
「そうなんだー!?でも、全国レベルってやっぱり凄いんだろうな~」
「梨々さんも目指せるよ、全中」
「えっ!?それは言い過ぎだよ~」
「いや、本当に行けるよ!梨々さんすごく上手だし、センスもあるし」
実際、梨々のテニスを今日初めて近くで見たが、びっくりするほど梨々は上手だった。
球は女子にしてはかなり速いし、球の種類も正確なものを沢山持っている。
今度の春の群市大会では、十分に優勝できる実力があると思う。
「ふふっ、ありがとう!隼くんのおかげで少し自信持てた!今日教えてもらったプレイ、次からやってみるね!」
運動をした後だからだろうか、それとも少し照れているのだろうか、梨々は顔をほんのりと赤くして笑った。
「お互い全中目指してがんばろうよ!楽しみながら、ちゃんと勝っていこう!?」
なんだか俺も気分が上がってきた。
だから、それを隠すように・・・とは言わないけど、梨々と同じ夢を目指せるということが、すごく嬉しかったんだ。
「・・・やっぱり隼くん、輝いてる!梨々まで本気で全中目指したくなってきた!!」
「うん、目指そうよ!」
そして、梨々がそれを受け止めてくれることが、物凄く嬉しい。
「ねぇ、隼くん!カラオケ対決しない?」
テニスコートから出て、タオルで顔の汗を拭きながら梨々は明るくそう言った。
「カラオケかぁ!いいね!楽しそう!」
「やった!じゃあ行ってもいいんだね!?」
「うん!初めて行く人の前で歌うのは少し恥ずかしいけど………でも俺も梨々さんの歌声聴きたいし!」
「ほんとっ!?じゃあ梨々、気合いれちゃおっと!」
両手でガッツポーズを作りながら、心底嬉しそうに弾んだ声で梨々は言った。
そんな様子を見て、元々歌うことやカラオケが好きだった俺は更に楽しみになったし、カラオケボックスの中で梨々と二人きりになる……………
そう考えただけで、俺の鼓動は高ぶった。
反面、ドキドキが梨々にバレてしまわないかと少し不安でもあった。
「ねっ、隼くん!何歌う!?」
カラオケボックスの中に入るなり、梨々がはしゃいだ様子でそう言いながら曲を入れる機械を操作した。
「俺が先に歌っていいの?」
「うん!勿論!むしろ、早く隼くんの歌声が聴きたくてしょうがないよ!」
「そう言われたら歌うしかないな~」
「歌って歌って!」
「じゃあ俺はこの曲を歌おうかな!」
俺は最近流行っている男性アーティストの曲を入れた。
「あっ!梨々この曲知ってる!このバンド、凄く曲がいいよね!」
曲を入れた瞬間、梨々が反応してくれた。
「うん!俺このバンド好きすぎて毎日聴いてるんだ!梨々さんも好きなんだ!?」
「好きだよ!でも最近ハマったから、あとでオススメの曲教えてね!」
「勿論!」
そんなやり取りをしているうちにイントロが終わって曲が始まった。
梨々と共通の趣味を見つけられたことが、凄く嬉しかった。
梨々と同じものを好きだと感じられることが、こんなにも嬉しいなんて………
俺が入れた曲がたまたまアップテンポの曲だったこともあり、この嬉しい気持ちのまま歌うとかなり気持ちよく熱唱することができた。
曲が終わり、少しして点数が出てきた。
「97点!?」
梨々が驚きの声を上げた。
「凄いよ隼くん!97点なんて!ほんとに凄いよっ!」
「ありがとう!過去最高記録かも……」
「そうなんだ!?でもほんとに上手だったもんね!梨々感動しちゃったよ!」
「そんなに褒められると照れるよ……」
「だって本当に凄かったもん!」
「ありがとう」
梨々は大きな目をキラキラと輝かせながら何度も凄いと言ってくれる。
梨々の褒め殺しにいつものことながら照れてしまうのを隠しきれない。
梨々は褒め上手だから毎回ドキドキさせられてしまう。
だけど、そんな梨々の様子を見たくてつい何でも頑張ろうと思えるんだ。
「さっ!次は梨々さんの番だね!梨々さんは何を歌うの?」
「梨々はね~……………これっ!」
そう言いながら梨々が入力したのは、大人気中の女性アイドルグループの曲だった。
明るくて軽快なノリのこの曲は、梨々にぴったりの曲だと思った。
曲が始まると、思った通り梨々は綺麗に澄んだ声で歌った。
その声や雰囲気はまるで本物のアイドルのように可愛らしく、何度もドキドキしてしまった。
「梨々さん凄く良かったよ!」
曲が終わった瞬間、俺は少し興奮気味にそう言った。
「ありがとう!でも、点数はどうかな!?隼くんに勝ちたいな~」
梨々がそう言った次の瞬間、梨々の点数が出た。
結果は93点。
「悔しいーっ!!!」
出た瞬間梨々はそう叫んだ。
「もう少しで隼くんに勝てたのになぁ!悔しいっ!」
「いや!でも梨々さん本当に良かったよ!何か、その……本物のアイドルみたいだったよ?」
「本当に!?ありがとうっ!でも悔しいなぁー!」
「じゃあもう一回勝負しようか!」
「えっ!いいの?」
「うん!しようしよう!」
梨々が勝つまでやりたかった。
だって梨々の喜ぶ顔が、見たいから。
梨々の笑顔のためなら、なんだってしたいと思った。
更に、梨々の新たな一面を発見できて、とても嬉しかった。
梨々は意外とかなり負けず嫌いだということが分かった。
きっと、何でも結果を出すことが出来るのも、揺るぎない自分を感じられるのも、梨々のそんな気持ちのお陰なのだろう。
それが分かって、俺は更に梨々を好きになった。
また一つ、梨々の素晴らしい魅力を知ることが出来て、この空間に感謝した。
そして、もっともっと、梨々を知りたいと思った。
梨々の魅力を、まだまだ沢山知りたいと思った。
だからこの時間が、ずっとずっと続いてほしいと思った。
二人きりのこの空間も時間も、俺に梨々をもっと好きにさせた。
もっと…………
梨々を近くで感じたいと思った。