シンデレラは眠れない
 結子が圭吾と出会ったのはちょうど五ヶ月前に遡る。
中部地方の或る県を季節はずれの台風が襲った日のことだ。

結子の勤め先であるひまわりフーズで救援物資のおにぎりの依頼を受けることになったのだ。
大量のおにぎりを作るため工場は朝からフル稼働し、事務や経理担当のものまで梱包や検品作業に駆り出された。
結子も朝から必死になってその作業を手伝っていたのだ。

予定数のおにぎりを作り終えた時はすっかり日も暮れ始めていたが目的地に向かうべく配送の担当者が次々にトラックを出発させていた。

工場のだれもがやれやれと肩のちからを抜いていると工場の敷地内に一台のワゴン車が入ってきた。
車から降りてきたのは20代半ばの長身の男性だった。
駐車場の隅っこで疲れきって座り込んでいた結子ににこやかに声を掛けてきた。

 「工場長さんはおいでになられますか? 私はこういう者です」 

結子はどぎまぎしてしまった。

 『うわっ モロ好みかも!……でも……』

浅黒く日焼けして胸元を緩めた白いワイシャツで腕まくり姿はまさに結子のタイプそのモノ……。
こんな素敵な男性に声を掛けてもらえるチャンスなんて滅多にないのに結子のその時の格好といったら……
朝から休みなく働いていたのでぼさぼさの髪の毛に化粧っけのない顔……
さぞかしコンプレックスのそばかすが目立っていたことだろう。

羽織っているものといえば ”ひまわりフーズ”と大きく背中に描かれた紺色のジャンパーおまけに首には白いタオルが巻かれていた。

 『あーあ……』と思ったのと同時にもらった名刺を見てもっと落ち込んだ。

     衆議院議員 立原 俊成  秘書 立原 圭吾 

と書かれてあったのだ。



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