恋の宝石ずっと輝かせて2
「大丈夫だよ。きっといい方法があるよ。能力を捨てて人間と結婚する獣人たちもいるんだし、きっと面倒な書類手続きもなんとかできる手があるんだよ。そういう問題は後で考えよう。今やらなければならないことは、カジビを見つけること。話はそれからだ」

「そうだよね」

 ユキも納得して、ペダルに力をかけて強く踏む。

 仁はいつも励まして気分をよくしてくれる。

 暗い中で薄っすらと見える仁の背中をユキがじっと見つめていると、肩幅が広く前年より男らしくなっているように見えた。

 ヘラヘラとした部分が時折り目立っても、仁の背中は大人になろうとしていた。

「さて、あの大きな家が八十鳩家だ」

 田畑に囲まれたこの辺りは真っ暗だったが、その中で一際目立つ灯りが目に入った。家の電気が明々と窓から漏れている。

 側にある電灯も弱々しい光を発し家のシルエットを浮かびあがらしていた。

 自転車を適当に停め、仁は手荷物を小脇に抱え、ユキはその後を慎重についていく。

 瓦の屋根つきの門の前で暫し立ち止まり、敵陣に乗り込むような気分でいると、何者かが声を掛けてきた。

「お前さんたち、何しに来たんだ?」

 ふたりはビクッと体を縮め後ろを振り返るが、真っ暗の中、目を凝らしても視界に何も入らない。

「ここだここ。お前さんたちの足元だ」

「楓太!」

 仁が名前を呼ぶや否や、しゃがんで柴犬を撫で出した。

 楓太は大人しくされるがままになっている。

 そしてユキを見上げた。

「お前さんは確かユキとかいうお嬢さんだな」

「えっ、私のこと知ってるの?」

「ああ、初めて会ったときは変な女子高生三人に、因縁つけられてたのを追い払ったときだったけど」

 ユキは「ん?」っと首を傾げたが、前年トイラとキースがここにやってきて間もない頃の不思議な出来事のことだと思い出した。
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