人形のいる街
予定よりも支度に時間をかけ、男の前に出されたソレは召使いの計らいで水浴びや若干の手入れで先程よりはマシに見えた。
俯き加減のソレが深く頭を下げる。
「きょ、今日からよろしく、おねがい、します…ご主人様」
聞きなれない呼び名に、背筋がそばだつのを感じながら、努めて冷静にソレを眺めた。
年はまだ若い、13を超えたのだろうか。
性別は見ての通り男、少年と言った方がしっくりくる。
この辺では珍しい茶のかかった瞳に薄い茶の入った細い髪が肩まであった。
言葉をあまり正しく教わっていないか、まともな教育制度など受けていないであろうソレに男が言う。
「俺はサリシ。オマエは今日からスナと名乗るがいい」
名前をもらったことに驚いたのはソレでなく、周囲の従者や召使いであった。
どよめきの室内で、口角があがるのを抑えきれず男は笑んだ。