ロスト・ラブ
胡桃に連れられてトイレに行くと、流しのところで目一杯に水を出して顔を洗う。
気持ち悪い。まだ感触が残ってる。
あの男に触られた感触を拭い去るかのように、ゴシゴシと口から下を擦った。
……ほんっと、みっともない。
胡桃がそばにいるのをわかっていながらも、手を止めることはできなかった。
気持ち悪い。感触が、消えない。
「……茜ちゃん。もう、いいんじゃないかな」
胡桃がそう言って流しの蛇口を閉めたときには、涙は溢れて口元は真っ赤になっていた。
「……痛い」
「うん。ちょっと切れてる、ここ」
触られて一番重点的に擦っていた顎を指して、胡桃は教えてくれる。
こんな私に呆れることもなくいつも心配してくれる胡桃は、本当にいい子。
いつの間に持っていたのか、メイクポーチからマスクを取り出すと、それを私に差し出した。