ロスト・ラブ



胡桃に連れられてトイレに行くと、流しのところで目一杯に水を出して顔を洗う。



気持ち悪い。まだ感触が残ってる。


あの男に触られた感触を拭い去るかのように、ゴシゴシと口から下を擦った。



……ほんっと、みっともない。


胡桃がそばにいるのをわかっていながらも、手を止めることはできなかった。



気持ち悪い。感触が、消えない。




「……茜ちゃん。もう、いいんじゃないかな」



胡桃がそう言って流しの蛇口を閉めたときには、涙は溢れて口元は真っ赤になっていた。




「……痛い」

「うん。ちょっと切れてる、ここ」


触られて一番重点的に擦っていた顎を指して、胡桃は教えてくれる。



こんな私に呆れることもなくいつも心配してくれる胡桃は、本当にいい子。


いつの間に持っていたのか、メイクポーチからマスクを取り出すと、それを私に差し出した。



< 10 / 285 >

この作品をシェア

pagetop