ロスト・ラブ
「颯太……。私ね、」
「うん?」
やっぱり力のない声が、また俺の名前を呼んだ。
それだけでも嬉しいと思ってしまって、思わず素で返事が出てしまう。
コイツにだけはこんなに優しい声も出るんだと、そんな自分のことに驚いた。
けど、もっと驚いたのはその直後。
「私……颯太に、触れたい」
「っ、」
思ってもみなかったその言葉に、本気で息をするのを忘れた。
「茜……?」
「前みたいに、颯太と……」
そこまで言いかけて、茜の言葉は止まる。
代わりに、スースーと小さな寝息が聞こえてきた。
……寝たのか。
すやすやと眠る穏やかな茜の表情とは裏腹に、俺は平常ではいられない。
“触れたい”、と。
俺のせいで世界が変わってしまった茜が、俺にそう言ったんだ。