ロスト・ラブ
「……俺だって」
つい本音がこぼれてしまいそうになる。
俺だって、お前に……。
ベッドから伸びた白くて小さなその手に、ゆっくりと手を伸ばす。
茜に触れたのは、あの放課後だけ。
茜が倒れたあの瞬間だけ、俺は考えることもせずに咄嗟にコイツを抱きかかえていた。
……そっと、指先だけでその手に触れる。
それだけでも心臓は鳴りっぱなしで、なんだか大きな罪でも犯しているような気分だ。
これ以上は限界だった。
指先だけ。たった数秒。
それでも、俺にとっては大きな出来事で。
「早く治れよ」
これ以上この場にいたらどうにかなってしまいそうで、俺はリビングに降りておばさんが帰ってくるのを待った。