ロスト・ラブ
「無茶だけはすんなよ。……これは、取り消してねぇからな」
「っ、そう──」
颯太、と。
名前を呼ぶよりも先に、颯太は教室を出て行ってしまった。
急に静寂が訪れる教室内。
「……知ってたんだ」
こぼれた言葉は、そのまま誰にも拾われずに溶けてゆく。
たぶん、全部。
颯太は、私の恐怖症のことを知ってた。だから……。
『私ちゃんと……、颯太のこと、男の人だと思ってるよ』
あれは、言っちゃいけなかった。
伸ばした手だって、引っ込める必要なんてなかったのに。
消しゴムだって、ただ取ればいいだけだったのに。
「……せっかく、」
せっかく、颯太と少しずつ前みたいに関われるようになってきたのに。
……守ってくれようと、してくれてたのに。
『俺はお前を怖がらせる』
嫌い。
……嫌いだ、こんな自分。