ロスト・ラブ


茜が学校に行くときは、茜の母さんが連絡をくれた。


行きも、帰りも、茜にうざがられようとも一緒に帰る。


最初は嫌がられることを考えてこっそりあとをつけようかとも思ったが、尾行に気づいた茜に怖い思いをさせるよりはいいかとこっちを選んだ。


「茜」

「……っ」


名前を呼んでみても、茜の目が俺に向くことはない。



『颯太、一緒に帰ろう!』

あいつが俺に声をかけてきていたのが嘘かのように、茜は"男"という存在を全く見なくなった。



……また、震えてる。

ただ名前を呼んだだけでも、茜の肩は震える。


……クソ。

何もできない自分が情けなすぎて腹が立つ。



そのあとも、茜が学校に顔を出すのは数える程度で。


修学旅行はもちろん、男女ともに関わりが増える学校行事に、茜が参加することはなかった。


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