ロスト・ラブ


本当、ここまで話すつもりはなかった。


というか、薫のことを勝手に話しちまった。学校で知ってる奴は俺だけなのに。あいつ、怒るかな。


……なんて、そんな考える余裕なんてないくらい緊張してるくせに。


目の前の茜も、いつの間にか視線は下を向いていて、こちらを見ようとはしない。


話さなければよかった、と、今になってそんな情けない後悔が少し芽生えたが後の祭りだ。


「……逃げるなら、今だぞ」


こんな俺といたって、怖いだけだろ。

暴力、とか。お前が一番怖くて嫌いだってこと、わかってたんだけどな。


そう思って言ってはみたものの、茜は首を横に振ってその場を動こうとはしなかった。


……その代わり、ポタ、と俯く茜から雫が落ちたのが見えて。


「……っ、俺のこと、怖いだろ。無理しなくていいから」


自分でも驚くくらい、心臓が嫌な音を立てたのがわかる。


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