ロスト・ラブ


ずっと怯えていた、"茜に怖がられる"という恐怖。

怖がられるくらいなら、一生口が聞けなくても嫌われて憎まれたほうがマシだ。


「……ぅ、ちがうの」


茜の口から、弱弱しくも言葉が出たのはそんな時だった。


「茜……?」

「ちがう。颯太を怖いなんて思ったこと一度もない。……これからも、絶対にない」

「……!」


ゆっくりと顔を上げた茜。

その目からは大粒の涙が零れているのに、茜は俺を怖くないと言う。


「ごめ……っ、ごめんね、颯太……。そんなにずっと守ってくれてたのに……私、なんにも気づかないで……っ」


それどころか、茜は何かのタガが外れたように泣き出してしまった。


「ごめん……っ、そう、た、ごめんね」

嗚咽交じりに、何度も何度も謝る茜。


「んで……なんでお前が謝んだよ。俺のせいでお前は……っ」

「違う、颯太のせいなんかじゃない……!」


わんわん泣く茜に、何故だか俺まで泣きそうになった。


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