ロスト・ラブ
本当は、俺だって怖くて仕方ない。
茜には、あの事件以来2回だけ触れた。
多目的ホールでのときと、茜の家で留守番をしているとき。
でもそれは、あくまでもこいつの意識がなかったからで。
あー……、くそ。俺が怖がってどうすんだよ。
「……怖くなったら、引っ込めていいから」
俺のその言葉に小さく頷いたのを確認して、俺も覚悟を決めて右手をそっと伸ばした。
少し躊躇してから、ゆっくりと小指を絡める。
「っ……」
「………」
茜が少し反応したけれど、お互いすぐに離そうとはしなかった。
たかが小指。時間にしたら、数秒だけの出来事だったと思う。
それでも、俺たちにとっては大きすぎる出来事で。
「颯太、今までずっとありがとう」
「っ!」
思ってもみなかった茜からのその言葉に、俺は思わず泣きそうになった。