ロスト・ラブ
「バーカ」
真剣に心配をしていたのに、当の本人は呆れ顔だった。
「俺のことはいいんだよ。お前が一番優先」
「でもっ」
「茜が嫌ならもちろんやめるけど。どうする?」
「っ、」
そんなの、ズルい。
颯太はわかってない。
私が嫌だなんて思う理由はひとつもないのに。
断る理由なんて何一つ思いつかない私は、差し出されたその手に触れることしか選択肢はなかった。
私が触れたのを確認した颯太が、優しくぎゅっと握る。
それだけのことなのに一気に体温が上がって、思わず下を向いた。
「行くか」
「う、うん」
ドクン、ドクン。
颯太の手が温かい。
や、やばい。今になって緊張してきた。
さっきまでとは別の意味で気まずい。