ロスト・ラブ


「そんなに隣にいてくれなくてもいいよ」


私は大丈夫、と、やっぱり強がりな自分が顔を出す。


「……バーカ」

颯太はそう言うけれど、それで離れていくことは何故かしない。


……そうだよ、颯太。

私、バカだから。


そんなことされてたら、勘違いしちゃう。



「うわ、金閣寺やべぇ」

「お前の語彙力、さっきからずっとそれだけな」

ぎゃはは、なんて背後で笑い声が聞こえる。



「茜、こっち」

ふと、颯太に呼ばれたと思ったら、その瞬間に左手にぬくもりを感じて。


ぎゅっと握られたその手に、ゆっくりと引き寄せられていくのがわかった。


その横を、別の高校の男子の団体が通り過ぎていく。


「……ったく、周り見て歩けっての」

ボソッと悪態をつく颯太の声が、真上から聞こえた。


< 263 / 285 >

この作品をシェア

pagetop